羽化




戸惑いがちだった腕に力がこもる。

差迷いがちだった瞳に色がともる。


イケブクロの炎を反射して、はじめ銀色に見えたその灰色の瞳は、
やがて怒りと悲しみと興奮と悦びを内包し、輝く金色に変わった。


これほどに心躍る戦いはこれまでに無かった、とライドウは思う。

その身の紋様さえ無ければ、人と見まごう外見を持つこの希少な悪魔。
弱く優しい印象しかなかったソレが、こちらの攻撃を受けるたびに変化していく。

より強く、より美しく。


「ハァッ!」
「キュッィ……」
「……! スダマっ!」


何度目かの斬撃で仲魔の一体を屠ったときだったか。
ゆらりとこちらを見たその金色の瞳が放つ憎しみの光に、その身から迸る闘気に、身も心も震えた。


――― 悪魔の羽化を見るようだ。


やがて、ゴウトの静止が入り、闘いは中断される。

また会うこともあろう、というお目付け役の言をどこか遠くに聞きながら、
名残惜しげとも思える視線を人修羅にゆるりと残しつつ、ライドウは踵を返した。




『ライドウ、お前らしくも無い。熱くなったか』

「ゴウトこそ、人のことを言えるのか。
お前のあのような『挑発』はついぞ見たことが無かったぞ」

『……何か、を感じさせるモノなのは確かだ』

「素直に言えばよい。魅了されたと」

『それは、お前だ』

「ああ、そうだ」

『……次が、楽しみ、か』


その問いに、ライドウはこくりと頷いた。


Ende

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ゴウトさんの「挑発」は、消すときに小一時間悩みました