悪魔壁 4



眼が焼け付くような輝きの後、
悪魔壁のあったところ、ライドウの目の前には三体の女悪魔が立っていた。

内、二体は金の髪。
片方は妖艶に、もう片方は清冽にその美貌を誇る。

だが、その場の全ての視線が集められたのはもう一体の悪魔。

すんなりとした華奢な均整のとれた肢体。
その身を美しく彩る紋様が放つ光は天空の色。
長く美しい黒髪は秘すべきところを秘すかのようにその体を流れ。
うなじから形の良い胸へ、そして下肢へとなだらかに流れるラインは扇情的ですらあり。

我知らず、コクリと喉を鳴らしたライドウに向けられたのは
どこかで見たことのある
強い力を放って輝く金の瞳。

「眼をつぶっててって言ったでしょー!!ライドウのエッチー!!!」

肉体の解放・改と死亡遊戯をダブルでぶちこまれたライドウはゆっくりとその場にくずおれた。



――― 2時間後

『なるほど、高位の神霊なら性を替えることなど容易。どれだけの能力に達しているかを試されたということか』
「ええ。ゴウトさん。少し前に、こういう力も必要になることがあるかもって、ロキが教えてくれてて」
『奴がか?!むう。確かに奴は女性体になって子供を産み落としたほどの者、この手のことにかけては右に出る者は居ないだろうが……どうも目的は不純な気がするな』
「当たりです!その場にウリエルが居なかったら、もうちょっとで悪戯されるところでした〜」

「……それで何事も無かったんでしょうね」

あまりに不穏な内容の会話に眼を覚ましたライドウが、地の底を這うような声で背中から問いかけると、白いマントに身を包んだ、シュラと思しき女悪魔がビクっと肩を震わせた。

「あ、ラ、ライドウ。起きたんだ。き、気分はどう?どっか痛くない?」
背を向けたまま振り向きもせず答えるシュラに、ライドウの機嫌が更に低下する。

「先の質問にお答えいただきたいのですが」

「えーと。ごめん。だって、やっぱり恥ずかしいからさ。お、思わず手が出ちゃって」

「……試されたと言っていましたね。誰があんな悪趣味な罠を」

「や。あの、自分一人で変身するには時間が無かったからさ。ロキとウリエルの力を借りたんだけど、いきなりあれだけの力もらうと辛くって、で、私慣れてないから、元に戻るのにしばらくはかかるみたいなの。だからもうちょっとこの姿で我慢してほしいんだけど」

「ところで。それ、誰のマントを羽織らされて(・・・・・・)いるんですか?」

「あ、あの。性が変わると、言葉遣いも勝手に変わっちゃうの。わざとじゃないんだけど、ホント気持ち悪いよね」

「……だから、どうしてそう隙だらけなんですか。貴方」

「髪の長さとか、体の色とか、身長も勝手に変わっちゃうの。始めはもうびっくりしたの何のって」

「いい加減に周りが貴方をどんな眼で見ているか自覚なさい!」


『……お前達。話がまったく噛み合ってないぞ』
呆れたようにゴウトがつぶやくと、二人は同じように黙りこくった。


「……とりあえずは」
しばらくして、立ち上がってシュラの後に立ったライドウは、シュラの羽織っている白いマントを奪った。
「わ!な、何するの」
慌てるシュラの肩に自分の黒い外套をふわりとかけて、まとわせる。
「こちらの方が透けません」

「あ、ありがと。ライドウ」
そう言って初めてこちらを見て微笑んだ顔は、罪作りなほど可愛らしく。

思わずクラリとしたライドウは慌てて学帽の唾を引き下ろし、
では、これはクー・フーリンに返してきますと言い残し、急いで立ち去った。

背中から追いかけてきた
「リンにありがとう!って、言っといて〜」
というシュラの言葉に、ひとつうなずいて。

「返事もしてくれなかった・・・。ねえ、ゴウトさん。やっぱりライドウ怒ってるのかな〜」
『気にするな』
「でもよくリンのマントだって分かったね〜。やっぱりライドウもリンが好きなんだね」
イケメン同士だもんね。と一人納得してうなずくシュラに、もはやゴウトは返す言葉を持たなかった。

……そしてゴウトにだけ見えたライドウの表情は、ゴウトの胸の中に収められた。



その後、シュラが本来の形を取り戻すまで、
いつもにも増して過激なシュラ様至上軍団のお供争奪戦が行われるのだが、
それはまた別のお話。




Ende

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※『肉体の解放・改』 はシュラ女性体の固有技。万能属性。
確率100%で魅了な上に戦闘が終わっても自動回復しない。