悪魔壁 番外



「え、わぁ!!ごめんライドウ!!」

悪魔壁を突破した後、目の前に居たライドウに思わず攻撃したシュラだったが、すぐに我に返り
心の底から焦った。

「うわぁ。手加減なしでいっちゃった!誰か早くディアラハンお願い!」

HP1だよ〜。あー、食いしばり消してなくて良かった〜!
え?なんで、戦闘中じゃないのにチャーム状態なの?え?私のせい?肉体の解放・改???
私、そんな技持ってないよ!ええ〜、女性体になったら技まで入れ替わってるなんてアリ?
うわー。だめだ。ハートマークが消えないよぉ。ねぇ、ディスチャーム誰か持ってる?!

延々とパニックしているシュラの肩に、クー・フーリンの白いマントが掛けられた。

「主様。周りの者が目のやり場に困っております」
「リン」
「いーや。俺はまったく困ってないぜ」
「貴方は黙ってなさい!ロキ!」
「え、ロキ。もう元に戻ってるの?!早い!さすが女装のプロ!!」

いや、女装じゃないし。
プロでもないし。
確かにその北欧産ハレンチ大魔王、雌馬(馬だぞ馬!)に化けて、牡馬とゴニョゴニョ(笑)して、
馬の子を産んだという超とんでもない経歴の持ち主だが。

・・・とか何とか、周りの悪魔が遠い目で思っていると冷静なクー・フーリンの声が飛んだ。
「とにかく主様!その者の手当ては他の者に任せて、まずはお着替えを!!」



◇◆◇



「と言われても、合う服が無いんだよね」
結局、気絶したままのライドウをターミナルに運びこんで手当てした後、
しばらく替える服を探したものの見つからず、シュラはクー・フーリンにそう告げた。

「元に戻るまで、まだかかりそうだし」
だから、もう少しこれ借りててもいい?
自分のマントにくるまって、そう尋ねる主にクー・フーリンが否やを言えるはずも無く。

そのまま、ライドウが心配だからとターミナルに戻っていった主の後姿を見ながら、
クー・フーリンは深い溜息をついた。

「しばらくもめそうだな」
「ロキ」
楽しそうに口の端を上げた魔王をクー・フーリンは咎めるように睨んだ。

「お前は初めてだったか?シュラの女性体」
「……ええ」
「ふうん。じゃあ、すごい自制心だな」
「なんのことです」
「俺も長い間、魔王やってるが、あそこまでキレイな悪魔は見たことない。
普段は男性体だから分かりにくいが、フツーの悪魔が今のあいつの姿見りゃ、一目で魅了されて狂うぜ。ザコどもなんか文字通り瞬殺だな。」

しばらく黙って聞いていたクー・フーリンは呆れたようにタメ息をついた。
「……いつまでもバカなことを言っていないで、主様の体を元に戻す方法でも見つけてきてください」

これだから堅物は、とブツブツ言いながらロキが去ると、
クー・フーリンはずるずるとその場に座り込んだ。

そして自分自身を嘲笑う。

―――自制心などと。

咄嗟にお姿を隠したのは、自分の為。
あと少しでもあのお姿を見ていたらどうなっていたか、自分でも分からない。

そして、自分のマントにくるまったあの方を見ていると
白い喜びと、黒い悦びが身の内で縺れあうようで。
たまらなかった。


◇◆◇





「クー・フーリン」

呼ばれて振り向くと、そこには今もっとも会いたくない男が立っていた。
その男の手にあるのは、シュラに貸した己のマント。
その男の背にいつもある外套は、今は無い。

「シュラが、ありがとうと、言っていた」
「わざわざお持ちいただいて、恐縮です」
「いや」

受け取ったマントには、シュラの残り香。
無意識に顔を埋めてしまったクー・フーリンに、その男は眉を顰める。

「主様はどうされておられるのですか?」
「ゴウトと話している」
「いえ、お召し物はどうされたのかと」
「あ、ああ、僕の外套を渡した」

その答えは予想通りなのに。
普段無表情なその男の顔に走った朱が、クー・フーリンの胸を黒く焦がす。

では、と、立ち去っていく姿勢の良い後姿を見ながら、想うのはただ己が主のこと。


私はもう。
とっくに狂っております。主様。
男でも女でも関係ありません。
貴方が貴方であるというだけで、私は。

でも貴方は
私だけを見てはくださらない。
私は貴方の「大切な仲魔」の一つでしかない。
今 貴方の心をもっとも捉えているのは、恐らくはあの…。


そしてそのまま、何かを振り切るように、美しい幻魔は瞑目した。




Ende

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レベル52の魔王にできて混沌王にできないはずは無いだろうと。性転換。