砂の船 A面



誰か、僕を 呼ぶ 声が する―――深い 夜の 海の 底から





「…シュラ、シュラッ!」


目を開けると、その人は心配そうに眉根を寄せて俺を見ていた。

「どうしましたシュラ?ひどく魘されていて、何度呼んでも起きないので…」



俺が黙ったまま、ゆっくりと起き上がったから、

心配しました、という語尾を口の中に閉じ込めたその人は、

そのまま表情を隠すかのように帽子の鍔に指をやった。



「え…?シュ」

その指をつかまえる。

もう片方の手もつかまえる。

そのまま押し倒して、唇を合わせ。

首と心臓に指を走らせて。

吐息と鼓動を確かめる。



「悪い、寝ぼけた」

指を放し、手を放し、唇を開放すると、その人は複雑な目の色で俺を見る。

悪かった、と、もう一度言って立ち上がる。



「…っ。待ってください」

つかまれた腕は、ふりほどこうと思えばふりほどけた。


「どんな夢を見たのですか」

たずねられたコトは、無視しようと思えば無視できた。


「大好きなヤツの夢、だよ」

―――でも答えてしまったのは、夢に出てきたその人の瞳が傷つくのを見たかったから。











目を開ければ、窓の外には――― 嗤うように 傾いた月



Ende

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冒頭&文末は中島みゆきの「砂の船」(アルバム『寒水魚』)