「あたた。もう、落とし穴 やだなぁ」
「大丈夫ですか?シュラ。どこか傷めてはいませんか」
「いや。大丈夫。ライドウは?……って、愚問だったね……」
いきなり現れた落とし穴に、皆そろって落ちたのに、
この涼しい顔をした召喚師は、腹が立つほどスマートに着地してみせたものだ。
……そのかっこよさにうっかり見惚れたなんて、悔しいから絶対に言ってやらないが。
「いえ、落とし穴には慣れていますから。しかし、そちらは誰も迷子にならないのですから。
……さすが、ですね」
「へ?迷子?なにそれ?」
「不運時の召還の際や、移動時に突発的な衝撃が起こると……たまに仲魔がはぐれます」
「ふぅん。犬の散歩中に、気づいたら首輪から紐がはずれてて……って感じかな〜」
『ぶ……っ』
ケルベロスの迷子時の様子を思い出して、ゴウトは必死に笑いをこらえた。
「で、どうなるの。そのままさよーなら?」
「いいえ。そのうち、再び出会って、また管に」
「感動の再会か。『ライドウ!会えて良かった!!もう離さないで〜!!!』とか?」
「……いえ、『見つけたぁぁぁ、迷子センターァァァ』とか『我は迷子になどなっていない。散歩していただけだ』とか」
「く……っ」
「シュラ?」
「くくぅ……っ」
「シュラ、どうしました?やはり先ほどの落下でどこか!」
「ぶわははははははっ」
「……………………」
どうやら笑いのツボに入ったらしく、シュラはそのまま爆笑を続けた。
「〜ああ苦しい〜。笑い死ぬ〜!! で、でもあれだね、ライドウ。愛されてるね?」
「愛……///!な、何のことですか!」
「だって、せっかく離れられたんだから、逃げ出すチャンスじゃん。なのにわざわざ戻って、その管の中にもう一回入ろうなんて、よっぽどかライドウが好きじゃなきゃできないよ。いいなぁ。ライドウ、仲魔に愛されまくりで……っ」
「……それを貴方にだけは言われたくはありませんが」
『我もまったく同意だが……ライドウよ、こいつ、最早聞いていないぞ』
おまけにそんなツンデレな台詞つきなんてサイコー、と、ますます笑い転げる人修羅の周りには、
管はおろか紐すらつけていないのに、穴に落ちても、他の世界に召喚されても、決して離れようと
しない悪魔の群れ。
「貴方こそ愛されすぎです」、と、ライドウはポツリと言った。