穏やかな晴れた日でした。
暖かな日差しに誘われたようにフラフラと居候の少年は散歩に出かけ、
それに気づいた探偵助手は、慌てて後を追いかけました。
道を歩けば人も魔も、関係無しにひきつけてしまう少年が心配でもありましたし。
そのままどこか、助手の手の届かない所に行ってしまいかねない不安もありました。
助手が追いついたとき、少年は川の傍で座っておりました。
川はその面に日差しを受けて、キラキラと輝いて見えました。
こちらに気づきもしないで、じいっと川面を見つめたまま動かない少年を見て、助手は心のどこかを引きちぎられるような痛みを覚え、それを振り切るために声を出しました。
「何を見ているのですか?シュラ」
「あれ、ライドウ?」
振り向いた少年の屈託無い笑顔に、ライドウと呼ばれた探偵助手はホッとしました。
シュラと呼ばれた少年は、横に並んで座る探偵助手に話します。
「きれいだな〜って思って。さ。俺の世界は、壊れる前でもこんなにきれいな川を街中で見ることなんて、まず無かったから」
パシャン。
「ほら、ライドウ!魚がいる!信じられないよ〜」
「……掴まえますか?」
少年がはしゃぐ様子を嬉しげに見ながら助手は言います。
もしこの少年が望むなら、助手はどんなものでも掴まえてみせたでしょう。
「いいよ。可哀想だし〜」
「そうですか?」
「うん。キレイなものは見ているだけがいい」
その返事を聞いて、助手は少しだけ眉根を寄せました。
「……そういえば以前、こんなことがありました」
「ん?」
「魚を掴まえた子供に、『可哀想だから、早く川に戻してあげなさい』と母親が叱っているんです」
「ああ、昔、俺も蝶々捕まえたときには、そんな感じで叱られたなぁ」
「でも、その子の返事が面白かったんですよ」
「どんな?」
「『川の中だと息が出来なくて可哀想だから、助けてあげたんだよ』」
「……優しい子だったわけだ」
「ええ。とても。――― でも水が無いと呼吸ができない魚には、とんだ災難です」
「そうだよな〜」
「何がそのものにとっての幸いかなど、当人にしか分かりませんのに」
「……うん。そうだな」
そうしてしばらく二人は黙って川面を眺め.
やがて、甘いものでも食べに行きましょうと誘う助手に腕を引っ張られ、
お前ホントに甘いもの好きだよな〜なんでそれで太んないんだよ〜詐欺〜とボヤキながら、
少年はズルズルと去っていきました。
――― それは、ある穏やかな晴れた日の、他愛も無い出来事。