朝 〜鳴海編〜



築土町 銀楼閣 鳴海探偵社

「ただいま〜」
あー朝御飯のいい匂い。えーと今日は日曜だから、当番はシュラちゃんかなー。

「おかえりなさい。鳴海さん」
あれ?
「ライドウ?」
「はい」

いくら日曜でも、朝帰りはほどほどになさってくださいね。シュラが心配しますから。
ああ、その辺に服をかけないで。ほら外から帰ったら、手ぐらい洗ってください。
あ、うがいもきちんとしてくださいよ。悪いバイキンがシュラについたら困りますから。

お前はどこぞのお母さんか……。つか、お前が一番困らせてるバイキンだろーが。
と突っ込みたくなるような、立て板に水なライドウの言葉を右から左に聞き流しながら、
鳴海はしげしげと、自らの助手を見る。

「……何か?」
「おまえ、ライドウだよ、ね?」
「ゴウトにでも、見えますか」
……またこの酔っ払いは、と言いたそうな視線が鳴海に注がれる。

「ほら、この指 何本に見えます?」
「えーと。2本……って、そうじゃなくってさ!」
ふむ。指の数ぐらいは分かるのか。前のときよりはましだな、と冷静に判断するライドウを再度、
鳴海は上から下まで見下ろし、また下から上まで見上げた。

「鳴海さん?何を、人をジロジロとスキャンして」
「何か、すっごく、変わってない?ライドウ」

……え?
と、微妙にたじろぎ、少し顔を赤くした助手に、鳴海は自分の勘が正しいことを直感する。

「な、何を」
「だって、全然違う!昨日会ったときと今と!!」
「どこが、ですか?」

そう言われて、う、と詰まる。
「えーと。どこがっていうと、どこって言いにくいけど、何て言ったらいいのかな、えーと」

ああ、そうだ!
「綺麗になった!」
「……ですから、どこが、どう」
どうやら自分のペースを一瞬で取り戻したらしい助手がそう返し。

う。どこって、どうって。と、所長が唸る間に、とりあえずバタートーストでいいですよねと言いながら、再びライドウが水屋に戻る。

「ああ、うん。ライドウは和食?……と、あれ?シュラちゃんは?」
「……彼は、少し、体調が……悪いので、後から、部屋で食事を取らせます」
僕もそのとき一緒に。と、何故か、口ごもるライドウの説明を聞きながら。
それでシュラちゃんの当番なのに、居ないんだ。と、鳴海は納得する。

「体調が悪いって、何〜?また戦闘?いや、でもちょっとやそっとじゃ体調崩さないよね」
よっぽどか大変な相手だったんだ〜。一晩中、戦ってたとか?ライドウは手伝わなかったの?

「……いや、まあ、そう、ですね」
微妙にストライクを入れてくる鳴海の突っ込みに眉を寄せ、適当な返事を返しながら、ライドウは
焼けたトーストにバターを塗る。

「ああ、で、ライドウのどこがどう変わったか、だよねぇ」
「もう、その話は結構ですから」
「いやいや、気になって仕事が手に付かないよ、だって、全然違うもん!」
普段から仕事が手に付いていないでしょうがと、思いつつ、ライドウはバターを塗り終えたトーストを皿に載せる。

と。

「あー分かったー!!アレ!そう、正にあんな感じ!!」
「何をいきなり」
やはり酔っ払いか、このクソ所長は、と思いつつ水屋から皿を持って出てきたライドウに
鳴海は100mile級の逆球(ぎゃくだま)ストレートをそうとは知らずに投げ込む。

「ほらほら、初めて男に抱かれて女になっちゃった女の子がさ、ものすごく綺麗に」


ガシ!


キィ……バタン!!!!

「……」
的確といえば的確。あまりといえばあまりに過ぎる表現をうっかり口にした探偵所長は。

助手にバタートーストを口に突っ込まれて、その後の問題発言を強制終了させられた。




Ende
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