ライドウが、学校へと向かった、その少しの後。
銀楼閣に集ったのは、二人の男と一匹の猫。
そして、一体の悪魔。
悪魔が入れた馨しいお茶と、悪魔が作った美味しそうな数種類のお茶菓子を囲んで。
二人の男と黒猫はただ黙して、悪魔の簡潔かつ要を得た、現状説明を聞く。
「……ということで、もう俺と、どうのこうの、ってのは全部忘れてもらったので」
お手数かけちゃいますが、そういうことで、よろしくお願いいたします。
そう、あっさりすぎるほどあっさりと事情をまとめ、ペコリと首を下げる彼に。
猫用に特別に味を調整したクッキーをコリコリとかじる黒猫は無言のまま、尻尾をポンと。
あー美味しいなぁ、と、思わずといった風に言葉を落としながら茶を啜る男は、首をコクリと。
三者中、二者がさりげなく承諾の意を示す中で、残り一者は。
明らかに自分用に作ってくれたと思われる甘味を前に、身じろぎもしない。
「……雷、堂さん?」
戸惑ったような、どこか悲しげな悪魔の声にびくり、とする彼は、それでも。
美しい瑕の残る顔面を凍結させたまま、目を逸らす。
「あーっと、シュラちゃん!」
忘れてた!そういえば、俺。雷堂君に、こっちの甘味屋の大学芋を今度来たときにごちそうする、
って言ってたんだ。……ああ、今はもう、美味しい、お茶菓子がいっぱいだけど。
「お土産に持たせたいから、ちょっとだけ“おつかい”、お願いできる?」
「……え、っと、でも」
「ほら、……彼だって、ちょっとは頭を整理する時間、欲しいと思うしさ」
ね、と、促す鳴海に、シュラは戸惑いながらも、そう、ですね、と。こくりと肯いて。
他に、シュラちゃんが好きなのあれば、買っておいで〜、ついでにライドウにも、
と、背中に届く声に笑って手を振って、パタンと扉の向こうへ姿を消し。
そして。
黒猫とモジャ頭の男は、もう一人の黒衣の少年の解凍に全力を尽くし始めた。