別れ ver.1




「じゃあ、元気で」
「貴方も」

名も無き神社の奥にある、涼やかな風が通る森。
二人とも、にこりと手を振りながら、また明日会えるような、そんな簡単な、軽い言葉で。

別れた。




『……行ったか』
「ゴウト」

『なんだ?』
「僕は『上手に』笑えていたか」

『……ああ。安心しろ』
「そう、か……」

『先に、帰る。お前は後から帰れ』
「分かった」





そして、一人になった男はゆっくりと自分の手を見る。

――― この手で、あの腕を掴んで
――― 行かないでくださいと

そう泣き叫んで引き止めれば、優しいあの悪魔は留まってくれただろうか。


あるいは。

――― 二度と離れたくないのだと
――― どうか、連れて行ってくださいと

そう泣いて縋れば。



否。
きっと困った悲しい顔をして、そうして僕の記憶をまた奪って、行ってしまっただろう。
僕が苦しまないように。


貴方が望んだのは、この地で人として幸せに生きていく僕。
人から悪魔に堕とされて辛酸を舐めた貴方は、それが僕の幸せと信じて疑わなかった。


悪魔となっても、尚、優しい、優しすぎる貴方。
誰よりも強い身体に、誰よりも傷つきやすい心を持っていた貴方。
貴方に仕えた天使を天に還すために、その腕を切って与えた貴方。


――― ならば、僕を切り離すために、貴方はいったい何を犠牲にしたのか。


そんな貴方だから、僕はもう平気な振りをするしかなかった。

でも、本当は、僕は。貴方なしでは、もう。

ぽたり、ぽたりと滴り落ちる自分の涙を覆い隠すように、男は両手に顔を埋める。


――― もう、二度と会えない。

貴方に転生の意志など無いから、本当に、もう、二度と。


「貴方の居ない地獄で、未来永劫、「幸せ」に生き続けろと」

血を吐くような声で男は言葉を零す。

――― そんな酷いことを、あの優しい悲しい愛しい笑顔で、僕に。

「ひどい」

僕が、貴方の願いを裏切れるはずが無いと、分かっていて。

「ひどい」

本当に、
本当に貴方は。

――― 悪魔だ。


そして残された男はそのまま崩れ落ちるように地面に突っ伏した。



Ende

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ライドウside バッドエンド その1