僕の中に、溶けない氷が、ある。





「……っ」
雄としての生理現象、と区分するには。

「はっ、あ……っ」
切な過ぎる喘ぎ声をあげて、男は苦悶する。

「んっ。あ、……は……ぁっ」
篭もる熱を、逃がしたくて、己を慰める。

故の分からない、熱。
一度も、あの愛しい肌に触れたことなど、触れられたことなど、無かった、ものを。

……その、はず(・・)、なのに。


「あ、あぁ、ぁ……っ」

男の性は、己の手のみでそれなりの悦びを得られるはず、なのに。
あの悪魔に出会うまでは、これほどの熱など、知らなかった、のに。


「あぁ。……ュラ……ッ」

貴方以外では溶かせぬ氷が、僕の、内に、あって。飲み下すことも、吐き出すことも、できない。
それでも、その氷を溶かそうと、身体は熱を生み。行き場の無い熱は、ただ。ただ、篭もる。


「シュ、ラ……」

貴方に逢いたい。貴方に触れ、たい。触れ、られ、たい。
適わぬ願いに、壊れて、しまい、そうだ。


「ん。あ……あぁ」

焦る左手の指がシャツの襟をはだけ、
爪が、白い胸元に、薄桃色の擦傷痕をつけながら、鎖を掴む。
シャラと、引き上げられたその先には、虹色の宝石。……薄い、壊れそうな、それに口付ける。

「しゅ、ら」


――― もう、僕は、思い出した。

この、ペンダントの、秘密を。……貴方のように美しい、この石の、秘密を解けば。

「貴方の所へ行っても、いいの、ですよね」

紅い口唇が嬉しげに歪み、もっと紅い舌が、愛撫するように、その石を舐める。



――― 貴方のようだ。

貴方のように冷たくて、頑なで、壊れそうに、美しい。

覚えている。確か、IRIS AGATE と、貴方が。
思い出すだけで、熱を上げる、甘く、切ない、声で。

ああ、そんな声など、一度も、聞いたことなど無かった”はず”なのに。


「んっ。シュ、ラ、ぁ……っ」

口に含んで、舐め上げる。
ピリ、と。石の端で傷ついた舌先の痛みも、流れ出た血の味さえも。

貴方がくれた“はずのない”、悦びの、ようで。

――― 僕を狂わせる。


「待って、いて、くだ、さい」

必ず、この謎を、解いて、みせますから。
貴方の所へ、辿りついて、みせます、から。



……だから。


いかせて(・・・・)

ぼくを、いかせて、しゅら。
アナタノトコロニ。

「イカ、セテ……」






Ende


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こわれそうになったらおもいだしてと

 あなたが、