「ちぃっ!どこに行った!」
「くそう、すばしっこいヤツめ」
なにやら騒がしい外の様子に、扉を開けると
「うわぁっ!」
シュラの胸にフンワリとした毛玉が飛び込んできた。
「シュ、シュラ様!」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
慌てて衛兵が駆け寄り、平身低頭で謝りまくる。
「ん〜、いいけど。・・・この子 何?チェフェイか、タマモの子?」
そのさわり心地を楽しむかのように、毛玉――― 白い子狐をなでなでしながら、シュラは尋ねる。
「い、いえ。どこかから迷い込んできたようで」
「妖狐の子であることは間違いないでしょうが」
へー。ケテル城にもぐりこめるなんて、お前っておりこうさん〜と、更になでなでするシュラに衛兵達は脱力しながらも、その笑顔に見とれた。
「・・・それで、飼うことにしたのかい?シュラ」
と、苦笑しながらシュラと話す背広の男は、育ての親のルイだ。
「うん。そうなんだ。親が見つかったら、返すけどさ。それまでいいだろ?ルイ?」
「私は構わないけどね。・・・うん?この子狐・・・」
触ろうとするルイの手を嫌がり、毛を逆立てる子狐をまじまじと見つめて、
「はっ!あははははははっ!!」
大笑いを始めたルイにシュラは目を丸くする。
「ル、ルイ?そんなに笑ったところ、見たことないけど・・・どうしたの?」
「い、いや。何でもないよ。シュラ。その子、どうやらお前の"気"に合うようだね。ほら、もう尻尾が
分かれてきてる」
「あ、ホントだ。えーと、尻尾が増えれば増えるほど妖力が増すんだったっけ?」
「というより、妖力に比例して、尻尾が増えるんだけどね」
「ふうん。お前ちっこいのに、すごいんだな〜」
そう言って、子狐をなでなでするシュラ。
「近いうちに人型にもなれるようになるよ」
「え?そうなんだ。そっかー、こんなにキレイなんだから、人型もキレイだろうね」
楽しみ〜!と、もふもふさわさわなでなでして喜んでいるシュラの横でルイは嗤う。
「可愛がってやるといい。畜生道に堕ちてまで、君を追いかけてきたのだから」
「え?」
「いや。それで名前はどうする?つけるのかい?」
「あ、そうだね。何の子か分からないから、とりあえずつけとかないと呼びにくいし」
「クズノハ、なんてどうだい?恐らくは葛葉狐の眷属だろうし」
「あ、それいいね〜。俺好きだったんだ、恨み葛の葉のお話」
「ヒトだったときにかい」
「・・・うん。ヒトだったときにね」
シュラにはもう、最後の戦いに向けて、不要な記憶は残っていない。
それでも子狐は幸せそうにシュラに顔をすりよせ、シュラは嬉しそうに子狐をなでる。
最後の戦いまで、あと少し。
よく間に合ったものだ。
――― 愛の力かな?と、シュラと子狐を見ながら、ルイはそっと笑んだ。