呪縛





(ね、よく聞いてね、()
・・・だぁれ?

(彼のトコロにたどりついたら、気をつけて、ね)
・・・なにを?

(絶対に、彼を好きになっちゃいけないよ)
どう、して?






キュイッ!

「・・・ッ」
「なっ! クズノハ、お前、シュラ様に何を!」
「あ、ああ、俺がいきなり手を出したから、驚いたんだよ」

突然、シュラの手に牙を食い込ませた子狐に、気色ばむ周囲を留め。

ごめん、な。クズノハ、びっくりさせて、と。
優しい笑みを向ける主から逃げるように、白い子狐はその場から走り去った。






ちがう、ちがうちがうちがうちがうちがう!
悪いのは貴方じゃない!僕が、僕が、また(・・)、貴方を傷つけたのに。
そんな、哀しい笑顔で僕を見ないで!そんなふうに謝ってしまわないで!

どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして、
どうして、僕はこんなに、こんなにあの方の傍に居たいのに。

どうして「好きになっちゃいけない」の?








「クズノハは、どこかおかしいのでは?」
クズノハに噛まれた主の傷を、眉をひそめて見る側近達に、
こんなの舐めておけばいーよ、と笑っていたシュラだが、その問いかけには眉をしかめ。

「うーん。異様に成長が速すぎるからなぁ、その反動かな、とか思ってたけど」
何か変だよね? 情緒不安定、って感じ?、と、周囲に同意を促す。

「あれほどシュラ様に懐いていたのに・・・。尾が4本になったあたりからですか?」
「うん。それぐらい。・・・抱きしめたり、なでなでしてたりすると、たまにああなる」
俺の愛情表現が濃すぎ?うーん。なでなでには絶大なる自信があったのに〜、と唸るシュラに、
あのなでなでを嫌がる生き物がいるわけが・・・っ!と周囲は拳を握る。

まあ、少し距離を置いてみるよ、あれかな、案外反抗期とか、思春期とか、そーいうやつだったり? その内、ツガイの妖狐とか探してやるほうがいいかなぁ〜、誰か、いいお相手、知らない?
と、のんびりと大問題発言を落とす主を見ながら。

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

過去の事情を知る周囲は、何ともいえない脱力感と同情を覚えた。



◇◆◇




「こんなところにいたんだぁ」
庭の隅で、草に埋もれる様に身を隠していたクズノハは。
突然に聞こえた声にピクと耳を動かし、おそるおそる声がした方を窺った。

「シュラが心配してるよ、そろそろ帰らない?」
そこには、フワリと浮かぶ、自分の尻尾よりも小さな妖精。
でも、誰よりも長くシュラと居るピクシーが、クルンと宙返りをして、彼に笑いかけていた。





「・・・ねぇ、どうして、シュラを噛んじゃったの」
なかなかシュラの元へ帰ろうとしないクズノハに、ピクシーが単刀直入に尋ねる。

「シュラに触られるの、嫌?」
「どこか怪我してるの?」
「実は、寝ぼけてたとか?」

どの問いにも、ただフルフルと頭を振るクズノハ。

「・・・シュラが嫌い?」
ビクッと固まるクズノハに、ピクシーが溜息をつく。

「じゃあ、好き?」
そのまま動かなくなった子狐の顔を覗くと、彼は、目を真っ赤にして泣いていた。





何だかよく分かんないけど、あんたもそろそろコトバ話せてもいい頃なんだから、
ちょっとがんばって言いたいこと言っときなさい。じゃないとシュラに嫌われても知らないわよ!

泣き止まないクズノハにキツイ励ましの御言葉をかけたピクシーが去って、しばらくの後。
夕闇の中に、ゆらりと立ち上がったその影は、狐とは違う何かだった。



◇◆◇




あー今日はクズノハを抱っこして寝れないのか〜、淋しいな〜とぼやきながら、
ベッドに入ろうとするシュラの耳に、トントン、と微かなノックの音が聞こえる。

誰〜?と扉を開けてみると、
「? お前、誰・・・、え・・・、この"気"・・・って、もしかして、クズノハ?!」

白い肌に黒い髪、白い着物を着た、4,5歳ぐらいの小さな子供がそこに立っていた。

「・・・シュ、ら、さま」
「お前、言葉を」
話せるのか!と驚いたシュラの瞳は、一生懸命に言葉を綴ろうとする子供の姿を映す。

「シュ、らさ、ま、ぼく、を、きら、いに、ならな、いで、くだ、さい」

それだけ言って、黙ってフルフルと涙を流す子供をギュッと抱きしめて、
「バカだな〜、こーんな可愛いお前を誰も嫌いになったりしないよ」
そうシュラが言ってやると、子供はもっと泣き出してしまったので。

ああ、困ったな。可愛すぎ〜と、シュラは心中で悶絶する。

「・・・おいで、泣き止むまで抱いててあげるよ」
そして、いつものように優しい腕の中にすっぽりと埋まって、そっと何度も撫でられて。
クズノハは泣きながらいつしか眠ってしまった。









(だめ、だよ。()。あんなに駄目だって言ったのに)
・・・誰?

(絶対に、彼を、好きになっちゃいけないのに)
どうして?

(絶対に、彼を、愛しちゃいけないのに)
どうして?

(・・・ああ、でも、彼を愛さないなんて、きっと「僕」には無理かな。・・・だったら)
だったら?

(絶対に、彼に、愛されちゃいけないよ)
・・・どうして?!

(・・・・・・)
ねえ、どうして、だめ、なの?!

(・・・また、置いていかれたいの?)
置いて、いかれる?



(・・・彼は、悪魔、だから)

――― 大事なモノほど、自分から遠ざけてしまう、哀しい優しい悪魔だから。





Ende


魔界top

後書き反転

これをきっかけに人型になれたり、言葉を覚えたり、強く、なっていくのですが。

実はこれ。
Wordプロパティによると、作成日時:2009年5月15日の作品でございます。
・・・コノ野郎、7ヶ月もどこで発酵させてたんだ!みたいな感じですが。
長い間、アップできなかった事情は・・・お察しください・・・。

クズノハが可愛すぎるからいけないんだ・・・っ。