注
ルイ様が弾を誘惑?しているのを、人修羅が呆れて見ている、というお話のはずが。
あれ?あれあれ?もしや「息子」の前段階ですか?な話に・・・。
ギャグの影で色々と垣間見えるモノが、ちょっぴり、怖い、かもです。
「そうかぁ。そんな話があるんじゃなぁ」
ルイは何でもよぉ知っとるなぁ、と。目を輝かせる青年の黒い瞳に映る相手の瞳は。
晴れた空のように、青い。
・・・綺麗な、青、じゃあ。
そう言えば、確か、青眼、ちゅうたら。
好きな奴が来たときに、嬉しゅうて仕方ねぇ気持ちが現れた目、のことじゃったのぉ。
・・・って、好き・・・?
い、いや、そういう意味じゃねぇぞ。
大体、俺は衆道の気なんぞ、無いんじゃからなぁ!
ま、まあ、確かに。里では、教育の一環でそういうことも、無くはねぇが・・・。
「ん?どうかしたのかい?・・・弾?」
「い、いや。何でもないんじゃ、ただ・・・、そのぉ、なぁ」
綺麗な瞳じゃなぁ、って、思って、と。
口ごもり俯く青年の頬は、少し赤い。
そのまま下を向いてしまった彼は気付かない。
目の前の彼の、青い瞳が、この上なく、優しく、この上なく、酷薄に、弧を描いたのを。
・・・罠にかかった子兎を見つめる、狩人のように。
「ルイ!」
――― え?、と。
黒髪の男は、その、突然発生した軽やかな声の主の方に振り向く。
これまで一度も、このルイと言う外国人との逢瀬で他者が介入したことは無かった。
てっきり、このへんじゃ、知り合いが居ないのかと思うとった、のになぁ
そう、思って振り向いた弾は、硬直する。
なるほど・・・「ルイ」は友を呼ぶ・・・ってのはぁ、こういうこと、かぁ。
おい待て!若干、いや、かなり、その「類」とは違うから!
と、突っ込んでくれる良識人は、残念ながら、弾の脳内には居なかった。
◇◆◇
はぁ〜。美人の知り合いは、美人か。
見惚れたままの弾を知ってか知らずか、木漏れ日を受けて光る銀灰色の瞳を持つ長い黒髪の
美少女はぺこり、と彼に会釈をする。お話の邪魔をして、すみません、と。
「おや、何か用かな?」
「(・・・白々しい)・・・ルキフグスがいい加減、連れ戻せってオカンムリ」
「くす。僕が居なくとも、君達が居れば大丈夫だろう?」
「(・・・ホント白々しい)私も、そう思うけど。“私がこの格好で”呼びに来れば帰るよ、とかどっかの暇な御方がおっしゃったらしくてね・・・。それぐらいで済むなら行って来い、って」
「アレが君にそんな口をきけたのかい?」
「・・・いや、口調はもっと丁寧だったけど。言っていることは同じ、でしょ」
溜息をつかんばかり、の呆れ果てた口調で語る彼女は。白い・・・確か、ワンピース、と言ったか。
膝丈ほどまでの、清楚で、それでいてどこか甘さを感じさせる洋装に身を包み、白いパラソルを差している。
「る、ルイ。こん人はぁ?」
「ああ。紹介が遅れたね。か・・のじょは、カオル。僕のいと・・・こ、だよ」
(・・・「彼」、とか、「愛しい子供」、とか言いかけただろ。ルイ)
そうかぁ。やっぱ、綺麗なヤツの親戚はやっぱ綺麗だなぁ、と。
赤い顔で、頭をがしがしと掻きながら笑う青年の屈託の無い笑みを見て。
黒髪の少女は、一瞬、とても。とても哀しそうな色を、その瞳に浮かべた。
◇◆◇
また会おうなぁ。ルイ。
あ、ええと。カオル、さんも、また会えたらええのぉ。
今日は会えて、嬉しかった・・・んでなぁ。
そう言って、去っていく弾の後姿を見ながら、カオルはぽつりと問いかける。
「・・・彼、どうするつもりなの、ルイ」
「さあて、どう、しよう、かねぇ」
彼を見ていると、少しだけ”アレ”の気持ちも分かるよ。要らぬ知恵をつけたくない。
「あのまま無垢で馬鹿でどうしようもない、赤子のような純粋さのまま、居て欲しいと」
エデンの園で、何も知らぬまま、飼っておきたいと、思ってしまうねぇ。
「・・・よく言う」
私には無理やり口に突っ込んできたくせに。しかもリンゴどころか、生きて蠢くアレを。
くす。
仕方ないだろう。
「そうしないと、君も他の人間と同じく、消されるか、淘汰されてしまっていたのだから」
それとも、何も知らないまま、消されたかった、かい?
大いなる意志の赴くままに。
「・・・とりあえず、約束だから、帰ってルイ」
私もさっさとこんな服、脱ぎたい。・・・勝手に変わるこの女口調も、もう、いや。
「こんなに似合っているのに、残念なことだ。・・・ああ、それとも何かい」
そうか、さっさと僕に脱がされたいのだね、それならそうと。
「馬鹿は休み休み言いなさい!」
ホント、この形態のお前の相手は、心底、疲れる・・・。
でも、ルイ。
「あの、弾って人。あまり、遊びすぎないで、放してやって、ね」
・・・いじりすぎて、殺してしまう、前に。
「優しいねぇ、混沌王。自分は放してもらえないのに、人の心配かい」
でも、そうだねぇ。もうすぐ本命が罠にかかるから、そうしたら、まあ後は彼の好きにさせてやるよ。
「・・・本命?」
「ああ。彼は“兎”だからね」
「兎」
「“狐”を罠にはめるための、餌」
どうせ飼うなら、すぐに死なない強い獣がいいからね。
君のように、このうえなく、強くて、優しくて、綺麗で・・・残酷な。
ああ、君と“彼”を並べて、僕の家で飼えたら。・・・どれだけ美しい一対、だろうね。
つがって、子供を作ってくれるのもいいね。さぞかし美しい子ができるだろう・・・。
「・・・・・・」
気分はすっかりブリーダーな上機嫌な魔界の王を、もう呆れ果てて声も無く見つめた混沌王は。
その強くて綺麗で優しい狐さんとやらも大変だなぁ、と、心の底から同情し。
状況さえ許せば、さっきの兎さん共々、うまく逃がしてやろうと。
固く、心に決めた。