アバチュ系S修羅×ドライドウ vol.3





アバチュタイプの超Sな人修羅と、ボルテクスを知らない超ドライなライドウが出会ったらという設定の元に進めています。1回戦は一瞬で片がつき、2回戦はS修羅がドライドウを押し倒した上にMagを口移しで奪って、S修羅お供のクー・フーリンの嫉妬を買う、という結果となっております。








その名を喚ぶ気など、無かった。
無かった、はずなのに。

これで、終わりだと。
もう会えないのだと、思った、そのときに。
僕は、その名を。








石畳に横たわる、人影。
その白い手と顔さえ無ければ、昼間に残した影、そのものが地面に残っているような。

ぴくり、とも動かないソレに、ふん、と呆れたように溜息をつき。

「しんじらんねー。コイツ」
くい、と爪先で、白い頬を押してみる。
反応は、無い。

「えらく切羽詰った声で喚びやがったなぁ、と思って、覗きに来たら、何コレ。何ココ」
何、お前、この程度の相手にやられてんの?・・・ホント、しんじらんねー。


突然、現れた見知らぬ悪魔の毒舌に、「この程度」と評されたモノ達が憤る。

「「て、てめぇ、ナニモンだぁ!?」」

「「そ、そうだ。いきなりアラワれて、ナマイキなことを!」」
「「た、ただですむとオモってナイだろうなぁ?」」

「五月蝿いよ」
振り向きもせずに、その人型の悪魔は不機嫌そうな言葉を返す。

「「あ、あぁ?なんだとぉ?!」」
「五月蝿い、って言ったの。・・・七月蝉いって言った方がいいか?」

「「ふざけるなぁ、てめぇっ!!」」





◇◆◇



異界、桜田山

電波塔から古寺まで覆いつくすほどの、召喚魔の群れは

突然現れた見知らぬ悪魔に襲い掛かった瞬間に。

その半分が、消滅させられた。

「やっぱり、大したことねーじゃん」
しかも、全員、俺を知らねーって。どんだけ雑魚の群れ?弱っちーご主人様に喚ばれたんだろうな。かわいそーに。

「「ば、化け物・・・っ」」

総崩れとなった悪魔の群れの最後尾。
ガシ、とその悪魔に背中から踏みつけられた魔物が悲鳴を上げる。
「「ひ、ひぃい。た、タスケテ」」

その悲鳴に楽しそうに悪魔は笑む。

「なぁ、お前ら、なーんか、隠してるだろ」
「「・・・え、な、何のことで」」
「とっとと、しゃべらないと、心臓踏み潰すよ」
お前ら程度が何百、揃ったって、あの男を倒せるわけねーじゃん。

「ね?何やったか、言ってごらん?」
にぃ、と上げられた口角の恐ろしいほどの美しさに、その魔物が口を割る直前。

「「そ、そそそ、そこまでだ!」」
顔を上げると、どうやら最奥に逃げ込んだ総大将ぽい魔物が、手に何かを抱えている。
形状と大きさからすると、小さな子供のようだ。

「あ゛ー、わっかりやすいな〜。人質かぁ」
「「そ、そうだ。この娘を殺されたくなかったら、おとなし」」
「・・・お前、バカだろ」

決め台詞を思いっきりへし折られて、総大将が唖然とする。

「なーんで、俺がその知らないニンゲンの為に、おとなしくしなきゃなんないの?」

ごもっともで、と、思わず肯く周囲を他所に。
ニコリ、と、天使のように無邪気に笑いながら、
ズクリ、と踏みしめた足の下には、声も無く踏み潰された魔物の心の臓。

「「こ、このアクマっ」」
「「非道っ!外道っ!!人でなしっ!!!」」

・・・ホント、お前ら、バカだろ。
その突っ込みようも無い、罵倒?いや、ホントのことばっか言われて、どーしろと。

「・・・もーいいから、全員、死んじゃえば?」
俺、弱いヤツ、嫌いなんだよね。

一瞬の後、地響きと共に起こった赤く光る亀裂に、その場に居る魔物は全て滅せられた。



◇◆◇



「う・・・」
「「お、やっと。お目覚めか」」

覚醒して瞬時にライドウは戦闘態勢に入る。
傍にあるのは、悪意は無いが、背筋が冷えるほど強力な魔の気配。

くる、と転回して、間合いを取り、退魔刀を構える悪魔召喚師に、その魔は溜息をつく。

「「おいおい。つれねぇなぁ。今まで見張っててやった恩人様、いや恩魔王サマに。」」

見知らぬ悪魔。紫の肌に金の髪、皮肉な笑み。そのマントと衣服の形状からすると、北欧系の悪魔か。

「・・・お前、は?」
「「ええーっと。アレだ。・・・"通りすがりの魔王サマ"だ」」
「・・・ふざけるな」

確か、さっきまではもっと低レベルな魔と戦っていたはずだ。
子供を人質に取られて、抵抗できぬまま、昏倒させられた、か。
・・・そういえば、人質とゴウトは、と、周囲をうかがうライドウの視線に気付いたか。

「「ああ、あのお嬢ちゃんなら、古寺の中で眠ってるぜ。黒猫ちゃんも一緒だ」」
(ほんとに、魔王ヅカイが荒いんだから、あのご主人様。地母の晩餐をかいくぐって、娘を助けろだなんて、どれだけ無茶な命令を。もうちょっとで、この髪がアフロになるところだぜ)

ぶつぶつと文句を言いながらも、何だか嬉しそうな自称「通りすがりの魔王」にライドウが声をかける。

「お前が、助けて、くれた、のか?・・・あの、群れから」
「「・・・いや、俺サマは、あの子が焼かれる前に受け止めただけだ」」
「では、誰が」
「「えーと、だな。口止めされてるんだがな」」

・・・あれだ。お前さん、無闇に怖い方の名前を喚ばないほうが、身のためだぞ。
2人ほど知ってるだろ?ウチの上司。目が青い方と赤い方。ああ、赤い方は普段は灰色か金色だが。

「・・・え?」
「「まあ、とりあえず、伝言だ」」

『次、くだらねーことで、喚びやがったら、マグネタイト根こそぎもらうからな!』

「・・・」

押し黙ったライドウに、じゃあな、伝えたぜ、と、マントを翻す魔王をライドウは呼び止める。

「「なんだ?」」
「・・・次は」
「「ん?」」
「伝言を。"次は、不覚はとらない"、と・・・あと」
「「あと?」」
「いや、いい」
礼の言葉など、あの悪魔は鼻で笑って、捨ててしまう、だろう。

口を噤んだ悪魔召喚師を、通りすがりの魔王は楽しそうに見やる。

「そっか。・・・まあ、がんばれよ。ウチのご主人様は競争率激しいぜー」
万に一つ、その管に入れられたとしても、それを狙って山ほど "お相手"がやってくるからな。
ああ、とーぜん、俺サマもその一人だから。・・・ま、せいぜい、強くなりな。

不穏な言葉と共に魔王が消え去った後、人質の娘とゴウトの身の安全を確保し。
ふう、と吐息をついて、ライドウは己の唇を噛み締める。




喚ぶ気など、無かったはず、なのに。







「・・・ありがとう」



ひとしゅら、と、続いたそれは、音にされずに。


悪魔召喚師の、美しい紅い口唇の上でだけ、形に、された。







Ende

種々雑多部屋top




あ、あれ?おかしいな・・・。こんな展開になるはずでは・・・。