邂逅



「おっ、そこの少年〜、こんな時間にこんなトコ、うろついてちゃ、ダメだよ〜」
「・・・」

繁華街を歩いていた俺の、背後から、突然、聞こえた男の声。

「ねえってば、少年〜、無視しないで、返事してよ〜」
「・・・」

念の為、周囲を見回すが、・・・居るのは酔客か、客引きらしき輩、ばかり。

「ねえねえ、返事しないと、補導員呼んじゃうよ〜」
「・・・」

この場合、少年・・・って、俺のこと、だろうな。
――― その呼ばれ方は、アイツ(・・・)のこと思い出して、イヤなのに。
だが、補導員は面倒くさいな、仕方ない、と思いつつ、とりあえず振り向いてみる。

と。

「だ、大丈夫ですかっ?!」

振り向いた俺の目の前で、いきなり地面に倒れかける男。
慌てて、体を支えて、助け起こす。

が。

「あ〜ごめんよぉ。・・・ぷはぁっ」
「・・・っ」

う・・・酒臭い。しまった・・・正真正銘の、酔っ払い、か・・・。面倒だな。
とは言え、ここで放置したら、冬空の下で夜を明かしそうな気配満開だ。凍死は困る。

困りつつも、支える腕を放さない俺に気付いたのか、呑気そうな台詞が聞こえてくる。

「あー、少年。やっぱ、君って優しいねぇ〜」
「・・・」

やっぱ、も何も。初対面、のはずです。あなたとは。酔っ払いさん。

(・・・いや、違う。・・・どこかで。・・・・・・この、波長は)

――― やめろ、要らぬ情報を得ようとするな!


俺の意志を無視し、不必要に動き出そうとする、"俺のシステム"を止めたのは。

「鳴海さん!探しましたよ!!」

やはり、突然に背後から聞こえた、男の声、だった。





◇◆◇




「本当にすまない。わざわざ、つきあってもらって」
「・・・いえ」

酔っ払いの右肩を担ぐ彼に、申し訳無さそうに言われて、同じく左肩を担ぐ俺は短く、返す。

乗りかかった船、というか、何と言うか。
(・・・泥酔状態の人間は、異様に、重い、から)

60kgの鉄の塊と、60kgの酔っ払いと、どちらが重いかと聞かれたら。
経験者は全員、そりゃ、酔っ払いだよ、と、矛盾した正しい答えを返すだろう。
・・・その質量は、同じなのだけれど。

要は力の入らぬ、ぐでんぐでんの人間は、予想以上に重い、ということで。
その荷物を、この一見華奢で美人な男の人一人に引き渡すのは気が引けたというか。何と言うか。

「すまない。とりあえず、そこに寝かせるので」
彼の指示に従って、鳴海、と呼ばれる男をソファに横たえ。
はぁ、と。俺は一息ついて、改めて、周囲を見回す。

「・・・え?・・・ココ、仕事場なんですか?」
てっきりどちらかの家にでも、連れていって、介抱するのかと思ったら。

(ここ、普通の会社、だよね。部分的に内部仕様を変更してる、みたい、だけど)
面白い内装。妙に、レトロだ。ええと、明治村とかその辺で見たような、雰囲気。

「ああ。明日までに上げないといけない仕事があるもので」
言いながら、美人な彼はその鳴海という男のものであろうPCに電源を入れる。

「明日まで・・・って」
(・・・朝までってことだよね)
そう、思って、時計を見る。

「・・・」
(もう夜中の2時、なんだけど)

「回復次第、仕事をさせないと、間に合わないって、ところですか?」
大変ですね、と片目をつぶって、笑うと、そうなんだ、と先方も苦い笑みを返す。

「いや、でも助かった。ありがとう。え・・・と、名前を聞いても、いいかな?」
「由良、と言います」
「由良くん、か」

本当に世話になった。ああ、ごめん。何も無いけど、お茶ぐらいは飲んでいって、と。
こんな美人さんに、気を遣われるのはとても嬉しいけれど。

(やっぱり、由良くん(・・)、なんだな)
仕方ない。初対面で俺の実年齢が分かる奴なんて、滅多に居ない。

「へー。キミ、由良って言うんだ〜。綺麗な苗字〜」
「鳴海さん!気がつきましたか!!」

「ねぇ、由良く〜ん。下の名前も教えてよ〜」
「鳴海さん!バカなこと言ってないで!気付いたなら、とっとと仕事にかかってください!」

「仕事〜?・・・俺の、一番大事な仕事はもう終わったよ〜」
「終わってないんです!僕のコードを貴方のに繋いだら、無限ループに入ったんですよ!」

「ああ、そうじゃなくてさ〜。・・・ほら、このコの名前が分かったから〜」
「・・・・・・それが、あなたの一番大事な仕事ですかっ!!」

「・・・」
(突っ込みようが無いほど、見事な夫婦漫才だなあ。息もピッタリ)
呆れるより、むしろイイモノを見せてもらいました、と拍手をしたくなる由良である。

「もう、頭カタイんだから、ライ・・・・うぅっ!」
「って、う、わ!・・・待って、鳴海さん!ココで吐いちゃ駄目ですっ!!」
慌てて、給湯室らしき小部屋へ、酔っ払いを引っ張っていく彼を、気の毒そうに見送って。

由良は入力を心待ちにして光を明滅させる、鳴海の淋しげなPCにその視線を向け。
そっと、小さく、何かを、呟いた。





――― 久 し ぶ り だ ね 。 ケ ル ベ ロ ス 。





◇◆◇




「すまない!由良くん。待たせてしまっ・・・あ、れ?」

一通りの処置を済ませ、戻ってみると、事務所には・・・誰も、居ない。
「由良、くん?」

気付くと、机の上に、短いメモ。

〔急用ができたから、失礼します。お仕事、がんばって下さい。ライドウさん。 From由良〕

「・・・」
悪い、ことをしたな、と、ライドウ(・・・・)は現在時刻を確かめる。
ああ、とっくに終電も無い、時間なのに。家が、この近く、だったらいいのだが。

・・・高校生、だろうか。タクシー代ぐらい先に渡せば良かった。どこかに連絡先、書いて・・・。
思ってメモを確かめる。予想外に、綺麗な文字。柔らかでそれでいて丁寧な。

・・・いや、こんな文字を書くなら、もう少し上か。大学に入ったばかりの、学生、かな。
本来なら、未成年は夜遊びはいけない、と言うべきだったのかも、しれないが。

酔っ払いを運んでもらった相手に、お説教はできないな、と。
苦笑するライドウは、ふと、ある、違和感に気付く。

「・・・あれ、でも」

お仕事、がんばって下さい。ライドウさん(・・・・・・)

「・・・彼に、僕の名前、教えた、か?」
鳴海さんが、話して、いたのだろうか。
いや、あんな滅茶苦茶な状況だったのだから、何かの拍子で言ったのかも、しれない。

「さて、そんなことより、仕事仕事!鳴海さん、いい加減にこっちに来てください!!」

さっくりと頭を切り替え、未だぐったりと寝転ぶ不肖の上司を呼びに行った彼は。
まだ、気付かない。


・・・鳴海のPCの光が、どこか嬉しそうに、明滅を繰り返して、いる、ことを。


――― まるで。

やっと、主人に出会えた、忠実な犬が、尻尾を振るように。





Ende

現代パロ部屋top




一体、幾つ伏線を張ったものやら。自分でも数えるのが怖い・・・。

次回は氷川さんとの対決が見られる予定です!モミアゲVSエム○ゲ!