Intermission A







新しい、癖が、出来た。






冬の街。
襟を立て、横を通り過ぎる学生達を、正確にはその顔を確かめて。

まただ、と。
男はその、自分で制御できぬまま発生する、忌々しい癖に、眉を寄せる。

――― 何かを、探す、癖。

いや、癖としては、小さい頃からあったの、だが。と。
周囲が己をうっとりと見つめる視線を、全て受け流して歩く美しい男は溜息を、つき。
ついた息が白い水蒸気を纏って、ゆっくりと天へと昇るのを、ぼんやりと、見る。

物心ついたときからの、奇妙な癖。
何を探しているのか、何故探しているのか、何も自分では分からないのに。
知らぬ街へ行くたびに、いや、見知った街でも、どこかに。
どこかに、“彼”が、居ないかと。いつも、探して。探し続けて。

(……“彼”か)
対象物を限定するその代名詞に気付き、ライドウはまた溜息を、つく。

そう。今は多分、“彼”を探しているのだ。自分は。
あの夜に一度だけ会った、不思議な少年。

(天使か、悪魔にでも、会ったのかね?)
氷川課長の揶揄が、じゃら、と数珠の音と共に再生され、軽く頭を振って、それを止める。

確かに……これさえ無ければ、まるで夢だったのかと、思えるほどの。
胸のポケットに手をやり、カサと指に触れるメモの存在を確かめて、安堵する。

(良かった。彼は実在する。もう天使でも悪魔でも、ない。僕の手が、届く存在だ)

でも、どうして、こんなに。もう一度会いたいと、思うのだろう、と問う己に
当然だ。あんなに迷惑をかけたのに、ろくに礼もしないままに、と。
上手な大義名分を作る理性。裏腹に、ただ、会いたい、と、呟く、感情。

「……」
もう一度、彼に会えれば。会って話せればこの不可解な感情の渦は霧散するのだろうか。

そう、思って、いた、矢先に。視界に飛び込んできた、”少年”の姿。
幻か、と一瞬、戸惑った隙に、15mほど前の道を横切って、別の街路へと影は。

間 違 い な い 。 彼 だ 。
目深に帽子を被っている、けれど。分かる。

目標を認識するかしないかの内に、駆け出した脚は、曲がり角で止まる。

――― あれは。

待ち合わせでも、していたのか。
控えめな笑顔で、でも見たことも無いほど愛しげな風情で、彼に、軽く手を上げて合図する男。

数分後。
その男と共に、マンションへと入っていった彼と。
触れるか触れないかの距離で、彼を守るように傍から離れぬ、その男の手が。
マンションのエントランスに入った瞬間、気付かれぬよう、そっと、彼の肩を抱いたのを見て。

ライドウの口元は、ギリ、と故の分からぬ摩擦音を、立てた。





◇◆◇



「久しぶりだね。氷川さん」
室内に入っても帽子も取らず、軽い口調で言う少年に、男は溜息を、つく。

「それは、私の台詞だろう。……一体、今まで、何処へ」
「……業務時間外は、詮索も、束縛も、しない、そういう契約だろ?」

勝手知ったる、という態で、リビングのソファに深く腰掛けた少年は、にこりと笑う。

「……そう、だったな。では、こちらも契約を果たさせて、いただこう」
少年の笑顔とは対照的な渋面になった、男は事務的に言葉を紡ぐ。

「脱ぎたまえ。由良君」
「……」
そういう契約、だろう、と続けられて。

「性急だね。氷川さん」

あんたにしては、珍しい、と。
少年は、苦く、嗤った。





◇◆◇



「お気に入り、でも、見つかったかね」
「何の、コト?」

「思わぬところで、懐かしいコードを見たものでね」
「ふ、ん。他部署のコードまでチェックするんだ、あんた」

そっか。それで、呼び出したって、こと?
当然だ。戻ってきているなら、連絡の一つも入れたまえ。

大体が。
「ご無沙汰すぎ、だったのでは、無いかね」
「……っ。ちょ、キツ、い、って」

痛いよ、と詰られても、その名に氷の字を持つ男の冷ややかさは、変わらない。

「自業自得、というものだろう?」
だが、その冷ややかさの裏に隠した、どこか辛そうな表情に気付いて。

「……悪かったよ。心配させて」
ふざけた色を消して、申し訳なさそうになった少年に。

「……もういいから」
力を抜きたまえ……余計に、辛いだろう?……と。

憤りの色を隠し、無表情なまま、優しすぎる音で、男は助言した。




Ende

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「あんたは、いつも、やさしいね、氷川さん」

Intermisson の和訳は ”任務の合間”