The cuckoo's nest 05



どうやら、疲れとアルコールで、暴走、したか。
深く自分を抱きこむ、美しい男の、濡れた瞳に現状を把握して、由良は、思う。

多少、気恥ずかしくはあるけれど、コイツに抱かれるのは嫌じゃないから、いい。
それに。あと、少ししか、こうして、いられない、から。


「……来月から、ですね、アメリカ」
「うん」

心を読んだような、唐突な質問に簡潔に返すと。
少し、抱きしめる腕の力が強くなったことを、由良は知らぬ振りをしてやる。

「……いつまで?でしたか」
「うーん。半年ぐらい、と見積もってるんだけど」
ちょっとデカいプロジェクトだから、正直、読みきれない。

そうですか、と、ライドウが落とす溜息は、深い。

(行ってほしくない、というのが正直な。…………だって。
アメリカ、には、あの男が居る。僕の前に、この人と過ごしていた、あの男が)

でも、そんな、こと。この、仕事に関しては修羅な恋人には、口が裂けても、言えない。
呆れられ、嫌われることを恐れる男は、募る思いを伝える表現を、変える。

「由良、さん」
「何?」

……名前で呼んでとねだってくれるのは、アノ時だけですね、とライドウはどこか苦く心中で笑う。
でも、それでも、いい。他のモノに、そう囀ったりしなければ、それで。

――― 今は、そんなことより。これだけは、伝えて、おかないと。

「帰ってきたら」
一緒に暮らしてもらえませんか。……僕と。

「え?」
「もう、知らない間に、どこかで倒れてる、なんて、冗談じゃない、ですから」

ええー。ちょ、俺、そんなに、信用無い?
腕の中でパタパタと慌てだす鳥に、あ、いいえ、そうじゃ、なく、と男は言葉を迷う。

「あの、部屋、探しておきます、から」
あと、落ち着いたら一度アメリカに、僕も貴方を訪ねて、いきます、から。

「え。アメリカ、まで、……って、ええ。そんなの!……わ、悪いよ!」
ちゃんと体調管理するから!と、更に困惑する相手に、言い方を間違えた、と理解する。

あ、と。そうじゃ、なく。あの。だから、僕と。

「結婚して、くだ、さい」
「……」

しまった、単刀直入すぎたか。
ピタリと、騒ぐのを止めて、瞬間凍結したように固まる相手を、思わず、抱きすくめて。
落ちてきた沈黙を壊したくて、言葉を続ける。

「え、と。アメリカなら、地域によって、男同士でも結婚できる、とか、聞いたことが。」
も、ちろん、式、だけで。戸籍上は養子縁組とかそうなるのかも、ですが。
あ、と。どっちが花嫁でも、花婿でも、僕は構いません、ので、貴方が選んでくれれば。
ああ、僕が調べたら衣装はどちらもタキシードとかが普通で。どちらかがベールを被る程度で。

「……」
言葉をかければかけるほど、腕の中の恋人の硬度が、上がるようで。

「……」
思案した男は、一番伝えたい気持ちを、言う。

「離れたく、ないんです」

――― もう。

僕が知らない間に、貴方の鼓動が止まっているかもしれない、などと。
僕以外のモノの名を、貴方がさびしげに呼んでいるかもしれない、などと。
思いながら、怯えながら、震えながら、ただ、待っているなんて、もう、嫌だ。







◇◆◇




声が出ない、俺を、しばらくの沈黙の後に、思い切ったようにお前が視線を合わせて、きて。
驚いた、顔をする。

――― ああ、俺、泣いてたか。

ひどく、焦った様子の、お前が、やがて。
とても、嬉しそうに微笑んで、俺をその両腕で抱きしめる。

よかった。
嬉しくて、泣いているのだと、思ってもらえたか。
――― それは、間違ってはいない、けれど。

でも、黙っているのは、騙しているようで。裏切っている、ようで、辛くて、俺は音を、出す。

「でも。」
逆接の接続詞に、ピクリ、と震える腕が辛くて、その笑顔を失うのが、嫌で。言葉を変える。

「部屋探すのは、俺がアメリカから戻ってからに、しような」
はい、と嬉しそうな響きの返事に、ああ、良かったと由良は安堵する。

「あと、頼むからペアのカップとか歯ブラシとか……パジャマとか、買ったりするの、やめて」
ええ?と、不満そうな返事に、頭痛がする。……やっぱり、買う気だったか。こいつ。

「……そういうのは、一緒に買いに行こう。俺が、帰ってきてから (……帰って、これたら)
はい!と、今度は即答で返される嬉しそうな声に、ピピがピィ!と不満な声を上げる。

…………。アノ子も連れて行きますか?新居。
二号同伴ですか、とでも言いたげな口調に、思わず、泣き笑いを起こしそうになる。
ゴウトさんのこともあるしな、また、考えるよ。と答えると。
二者は揃って、異なる美しい音で、諾と答えた。しぶしぶと。

――― くす。
何だか、本当に3羽で、巣篭もりしている、みたいだと、由良は思い。
安堵と疲れで、うとうとと眠ってしまいそうな自分を認識して。

ああ、言える間に、せめて、と。

「"till death do us part" ……だっけ?」
「え?」

「……俺はお前のものだよ。ライドウ」
俺が死ぬまで、俺は、お前だけのものだ。



――― 死が二人を分かつまで。


そう、誓いの言葉を、甘く、囀った。





Ende



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後書きは反転です
副題「フラグを立てるライドウさん」……オイ。
実はcuckoo's nestって、隠語で「精神病院」のこと、だったり、なんか、しちゃったり、して。
は、ははははは……。
だ、大丈夫。最後はきっとハッピーエンドだから!