どうやら、疲れとアルコールで、暴走、したか。
深く自分を抱きこむ、美しい男の、濡れた瞳に現状を把握して、由良は、思う。
多少、気恥ずかしくはあるけれど、コイツに抱かれるのは嫌じゃないから、いい。
それに。あと、少ししか、こうして、いられない、から。
「……来月から、ですね、アメリカ」
「うん」
心を読んだような、唐突な質問に簡潔に返すと。
少し、抱きしめる腕の力が強くなったことを、由良は知らぬ振りをしてやる。
「……いつまで?でしたか」
「うーん。半年ぐらい、と見積もってるんだけど」
ちょっとデカいプロジェクトだから、正直、読みきれない。
そうですか、と、ライドウが落とす溜息は、深い。
(行ってほしくない、というのが正直な。…………だって。
アメリカ、には、あの男が居る。僕の前に、この人と過ごしていた、あの男が)
でも、そんな、こと。この、仕事に関しては修羅な恋人には、口が裂けても、言えない。
呆れられ、嫌われることを恐れる男は、募る思いを伝える表現を、変える。
「由良、さん」
「何?」
……名前で呼んでとねだってくれるのは、アノ時だけですね、とライドウはどこか苦く心中で笑う。
でも、それでも、いい。他のモノに、そう囀ったりしなければ、それで。
――― 今は、そんなことより。これだけは、伝えて、おかないと。
「帰ってきたら」
一緒に暮らしてもらえませんか。……僕と。
「え?」
「もう、知らない間に、どこかで倒れてる、なんて、冗談じゃない、ですから」
ええー。ちょ、俺、そんなに、信用無い?
腕の中でパタパタと慌てだす鳥に、あ、いいえ、そうじゃ、なく、と男は言葉を迷う。
「あの、部屋、探しておきます、から」
あと、落ち着いたら一度アメリカに、僕も貴方を訪ねて、いきます、から。
「え。アメリカ、まで、……って、ええ。そんなの!……わ、悪いよ!」
ちゃんと体調管理するから!と、更に困惑する相手に、言い方を間違えた、と理解する。
あ、と。そうじゃ、なく。あの。だから、僕と。
「結婚して、くだ、さい」
「……」
しまった、単刀直入すぎたか。
ピタリと、騒ぐのを止めて、瞬間凍結したように固まる相手を、思わず、抱きすくめて。
落ちてきた沈黙を壊したくて、言葉を続ける。
「え、と。アメリカなら、地域によって、男同士でも結婚できる、とか、聞いたことが。」
も、ちろん、式、だけで。戸籍上は養子縁組とかそうなるのかも、ですが。
あ、と。どっちが花嫁でも、花婿でも、僕は構いません、ので、貴方が選んでくれれば。
ああ、僕が調べたら衣装はどちらもタキシードとかが普通で。どちらかがベールを被る程度で。
「……」
言葉をかければかけるほど、腕の中の恋人の硬度が、上がるようで。
「……」
思案した男は、一番伝えたい気持ちを、言う。
「離れたく、ないんです」
――― もう。
僕が知らない間に、貴方の鼓動が止まっているかもしれない、などと。
僕以外のモノの名を、貴方がさびしげに呼んでいるかもしれない、などと。
思いながら、怯えながら、震えながら、ただ、待っているなんて、もう、嫌だ。
◇◆◇
声が出ない、俺を、しばらくの沈黙の後に、思い切ったようにお前が視線を合わせて、きて。
驚いた、顔をする。
――― ああ、俺、泣いてたか。
ひどく、焦った様子の、お前が、やがて。
とても、嬉しそうに微笑んで、俺をその両腕で抱きしめる。
よかった。
嬉しくて、泣いているのだと、思ってもらえたか。
――― それは、間違ってはいない、けれど。
でも、黙っているのは、騙しているようで。裏切っている、ようで、辛くて、俺は音を、出す。
「でも。」
逆接の接続詞に、ピクリ、と震える腕が辛くて、その笑顔を失うのが、嫌で。言葉を変える。
「部屋探すのは、俺がアメリカから戻ってからに、しような」
はい、と嬉しそうな響きの返事に、ああ、良かったと由良は安堵する。
「あと、頼むからペアのカップとか歯ブラシとか……パジャマとか、買ったりするの、やめて」
ええ?と、不満そうな返事に、頭痛がする。……やっぱり、買う気だったか。こいつ。
「……そういうのは、一緒に買いに行こう。俺が、帰ってきてから (……帰って、これたら)」
はい!と、今度は即答で返される嬉しそうな声に、ピピがピィ!と不満な声を上げる。
…………。アノ子も連れて行きますか?新居。
二号同伴ですか、とでも言いたげな口調に、思わず、泣き笑いを起こしそうになる。
ゴウトさんのこともあるしな、また、考えるよ。と答えると。
二者は揃って、異なる美しい音で、諾と答えた。しぶしぶと。
――― くす。
何だか、本当に3羽で、巣篭もりしている、みたいだと、由良は思い。
安堵と疲れで、うとうとと眠ってしまいそうな自分を認識して。
ああ、言える間に、せめて、と。
「"till death do us part" ……だっけ?」
「え?」
「……俺はお前のものだよ。ライドウ」
俺が死ぬまで、俺は、お前だけのものだ。
――― 死が二人を分かつまで。
そう、誓いの言葉を、甘く、囀った。
Ende
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後書きは反転です
副題「フラグを立てるライドウさん」……オイ。
実はcuckoo's nestって、隠語で「精神病院」のこと、だったり、なんか、しちゃったり、して。
は、ははははは……。
だ、大丈夫。最後はきっとハッピーエンドだから!