銀楼閣deランチ



銀楼閣の三階に位置する鳴海探偵事務所は、本日貸し切りのため、事実上の閉店と なっていた。

「皆さん、お待たせ致しました。料理が完成したので頂きましょう」
そう言って白夜が台所から巨大な皿にスパゲティーを大量に盛って出てくる。
あまりに大量に盛りすぎて少しよろけた白夜を慌てて手伝ったのは雷堂だ。

「大丈夫か」
「雷堂さん、すみません。ありがとうございます」

お皿を支えてもらい、何とか転倒を免れた白夜はほっとしながら礼を述べた。そのにこにこの笑顔に
まんざらでもない様子で、雷堂はこくりと頷く。

「お、今日は巨大オムライスに巨大スパゲティーか。豪華だねぇ」
鳴海は椅子に座って二人の書生が料理を運び終わるのを待つ。先に出来たオムライスのいい香りを
嗅ぎながら待っていたので、かなりお腹が減ってしまっているのだ。

「うわ、旨そう・・・!白夜って料理も上手なんだね!」
嬉々とした声を出すのは混沌王である凍真だ。今日はボルテクス界からの参加となる。

「あ、お口に合うかどうかちょっと自信がありませんが。今日はオムライスもスパゲティーも スモウレスラーサイズなのですよ」
白夜はにこにこ笑顔でテーブルの上にスパゲティーが入った皿を置いた。 既に置かれてあったオムライス









も高さ30cmはあろうかという巨大サイズなのだが、このスパゲティーの量も半端無い。
なんといっても直径50cmほどある皿に山盛りになってパスタがのっかっているのだから。

「雷堂さん、手伝ってくださってありがとうございます」
「問題無い」
白夜に礼を告げられ、雷堂は僅かに微笑んで自分の席にもどった。白夜も自分の席へと回る。

「おやおや。かなりの量が出てきたね。まぁここは男共ばかりだから、この量でも足りないかもしれないね」
そうにこやかに告げたのはルイだった。

「頑張って作りましたが、足りない場合は我慢して頂くしか・・・。あ、デザートもありますよ。
杏仁豆腐を大量に作っておきました」
「さすがは白夜だね。食後のデザートも存分に味あわせてもらうよ」
「はいっ」

そう嬉しそうに告げてから席に着く愛しの後進に向かって、声がかけられた。

「今日は白夜の祝いの日ではなかったのか?何故うぬが料理を作っておるのだ。全くもって意味がわからん」
げんなりした表情で突っ込んだのはゴウト。すでにこの探偵事務所の状況がカオスすぎて、とりあえず窓際に退避しているらしい。一緒にご飯を食べてくださったらいいのに、と白夜は残念に思う。

「白夜もよく判らないのです。とりあえずお目出度い日らしいので、料理を作って皆さんをおもてなし しなさいってヤタガラスの使者の方に言われてしまいまして」
白夜はとり皿を配りながらゴウトの疑問に答える。

とり皿を受け取った雷堂は「すまぬな」と礼を述べながら己の素直な気持ちを吐露する。
「何がなんだかよく判らんが、我はそなたの料理にありつければそれでいい。オムライスはオムハヤシか。
旨そうだな」
「白夜ちゃんのオムハヤシは絶品だぜ。じゃあ遠慮なくいただきまーす!」
鳴海はいそいそとスプーンを巨大なオムライスに突きたてて、自分が食べる分を取り皿に入れてまずは一口と食べてみる。口の中に広がるふんわりとした卵の食感、そして濃厚なハッシュドビーフのソースがたまらない。
「うん、美味しい!」
白夜は鳴海のその第一声を聞いてほっと胸を撫で下ろす。
「良かったです・・・」

今日作ったオムライスはお米を一升ほど使用したので、卵を巻くのが大変だったのだ。 なんとか綺麗に巻いてお皿に乗せることはできたのだが、いつもと同じような味が出せているのか少々不安だった。 いつも自分のご飯を食べている鳴海さんの太鼓判が出たのであれば大丈夫だろう。

そう思っていると、横から声がかけられる。
「白夜、僕の分のオムライスをとって食べさせてくれないかい?」
「あ、はい。いいですよ」
何の疑問も無しに腰を浮かした白夜を見て、思わず凍真が突っ込んだ。

「ちょ、閣下だからってずるい!閣下にあーんするんだったら、俺にもあーんしてよ!」
すでにスパゲティーを大量に皿に乗せた凍真も自分の取り皿を白夜に差し出す。

「人修羅、君はいつからそんなに尊大な態度をとるようになったんだい?
魔王たる僕の前では少し大人しくしてくれないと」
「おじじに喧嘩で勝った俺を押さえつけようっての?それは無理な話じゃない?」

ふふんとせせら笑う凍真に、ルイは穏やかに微笑んだ。
「ふぅん、面白い冗談を言うね」
「あれ、冗談に聴こえちゃった?それとも冗談にしたいの?」

ルイと凍真の間で青い火花が散るのが見えて、雷堂は思わず唸ってしまう。 喧嘩は大いにしてくれればいい。この場でのライバルが減るからだ。 だが、こんな狭い場所でそのように殺気を放つと被害が・・・。
雷堂がチラ目で横を見ると、この中で唯一の一般人である鳴海がスプーンを咥えながら 巻き散らかされている殺気と戦っていた。

「何かものすごいプレッシャーがかかって、俺のか弱い心臓が悲鳴をあげちゃうよ・・・」
こういう発言をしているということはまだまだ余裕のようだ。心配して損した。

雷堂はこの隙にとサラダにスパゲティーを自分の皿に大量に確保した。これで食事が足りないと いうことは恐らく無いだろう。

「あ、あの、お二人ともやめてください。今日は皆さんとお食事会で記念の一日なのです。 白夜は皆さんと仲良く楽しくお食事したいです」
心配そうな表情でルイさんと凍真さんを見つめ、白夜は慌てて止めに入った。 この二人が喧嘩でもしたらこの事務所が無事では済まないだろうし、 他の人たちも巻き込まれてしまうだろう。そんなことにはなって欲しくないし、 喧嘩なんて哀しくて嫌だ。 けれど、凍真さんは相変わらず歯軋りをして唸り声をあげているし、 ルイさんは不適な笑みを浮かべて挑発している。

白夜はため息まじりで呟いた。
「ルイさんの後に、凍真さんもするでいいですか?」
その言葉に二人はこくりと頷いた。

「・・・仕方ないね」
「俺はそれでいいよ!」
どうやら怒りは押さえ込んでくれたようだ。白夜はほっとして早速オムライスを取り皿にとってルイさんの方に向き直った。

「ルイさん、オムライスです。熱いので気をつけてくださいね。あーん」
ルイさんの口元にスプーンをもっていくと、ぱくりと食べてくださる。しばらくもぐもぐと咀嚼した後、ルイさんはにっこり笑って「美味しいよ」と言って下さった。

「君は本当に料理が上手だね」
ルイさんに褒められて一気に嬉しさがこみ上げる。

「・・・皆さんに美味しく食べてもらいたいと思って、愛情を込めましたので」
白夜もルイににこりと微笑んだ。

「ねーねー、白夜!俺も食べさせて〜」
ルイさんに褒められて幸せな気持ちになっていると、背中から凍真さんがのしかかってきた。白夜は慌てて凍真さんの方に向き直って、今度はスパゲティーをフォークに巻きつけて凍真さんの方に差し出した。
「凍真さん、あーんです」
「あーん」
凍真さんは口を大きく開けて一気にばくん!と食べてくださった。勢いのいい食べっぷりに感動していると、咀嚼しながら嬉しそうに「美味しい!」と言ってくれた。

「お口に合って良かったです」
「白夜が食べさせてくれて美味しさ倍増だよ。白夜大好き!」
凍真さんにいきなり抱きつかれてびっくりすると、堪えきれなかったのか、雷堂さんがいきなり席を立った。

「ええい、お前ら!ご飯を食べるかいちゃつくのかどちらかはっきりしろ!というよりいちゃつくな!というか我にもいちゃつかせろ!」
「うわぁ、本心だだ漏れすぎ」
雷堂の心からの叫びに鳴海が突っ込んだ。

雷堂はそのまま白夜のところまで移動して、突然抱きつかれて顔を真っ赤にしている白夜から凍真を引き剥がそうとする。
「人修羅、いいかげん白夜から離れろ!我にかわれ!」
「やだね!白夜は俺のものだし」

凍真は白夜の体をぎゅうぎゅうと抱きしめて離そうとしない。それに焦った雷堂は凍真の腕と白夜の肩を掴んで無理矢理引き剥がそうとする。
「あ、あのっ、白夜も、ご飯を食べたいです」
雷堂にぐいぐいと体を押されながら凍真に体をぎゅうと抱きしめられ、もうどうしていいのかわからない状態になってしまい、白夜は困り果てながら二人にお願いをしてみた。
「いやだね!離さないよ」
「離れろと言っている!」

二人とも全く聞いてくれる様子が無い。白夜はどうしようかと逡巡していると、黒い影がさっと目をよぎる。
「お前たちは少しは落ち着かんか。食事中だぞ」
「いてっ!」

黒い影はゴウトだった。ゴウトはまず爪を立てながら人修羅の頭の上にトンと乗り、その後雷堂の学帽の上に降り立った。
「白夜が落ち着いて食事が出来ん。お前たちもそれぞれ自分の席に戻れ」
そう告げると、ゴウトは雷堂の帽子から今度は白夜の膝の上に飛び乗った。
ゴウトの言葉に凍真と雷堂は白夜の取り皿に目をやった。それはまだ使われてすらおらず、何も乗ってはいなかった。二人は慌てて白夜の体から離れる。

「わ、白夜ごめん。白夜もご飯食べないと」
「白夜、すまなかった。ゆっくり食べてくれ」
とりあえず喧嘩もなく二人とも体を離してくれて、白夜はほっとしながら微笑んだ。

「はい。遠慮なく食べます。・・・ゴウト有難う御座いました」
「困ったときはちゃんとはっきりと言わんとだめだぞ?」
「はい、ゴウト」
膝の上のゴウトの喉をするりと撫でてから、白夜もご飯を食べることにした。オムライスを少しとって食べると、思ったよりも卵がふわふわになっていて安心した。あと、バターライスの味もいつもどおりだ。心配していたオムライスの味がちゃんとなっていたことに安堵していると、鳴海からまたも声がかかった。

「白夜ちゃん、スパゲティーも美味しいよ。和風のだしのスープがとても食べやすい。俺好みの味♪」
「本当ですか?良かったです」
鳴海の言葉にスパゲティーの皿に目を移すと、もう殆ど残っていなかった。白夜は慌てて自分の分を皿にとって自分の分を確保した。
そんなこんなでわいわいと楽しく騒がしい食事の時間が過ぎていった。普段ではあまりない大勢の人数での食事に白夜はとても楽しむことができた。

「いつもだと大変すけれど、たまにこんな人数で食べるのもいいですね」
そうゴウトに告げると、ゴウトは呆れ声で鳴いた。

「いつも白夜争奪戦を繰り広げられては構わん。こんな行事、年に一度で十分だろう・・・」
ゴウトの呟きに白夜はくすくすと笑った。

「すみません。先ほどは助けて頂いてありがとうございました」
「全く手のかかる後進だ。もっとしっかりしてもらわぬと我が困る」
げんなりしながら告げると、思わぬ声がかけられた。

「しっかりとしているとゴウトに構ってもらえなくなりますので。
白夜はいつも、いつまでもゴウトに甘えてたいです」
ゴウトの体をゆったりと指先で撫でながら素直な気持ちを告げると、ゴウトは翡翠色の瞳を此方に向けて、
何かを言いかけてやめた。

「ゴウト?」
「いや、なんでもない・・・」
ゴウトは何も言わずに白夜の膝の上で丸くなり、体を伏せた。その体を白夜の指先がゆるゆると撫で上げていく。
あんな嬉しそうな顔で恥ずかしいことを言うやつがあるか!!と、心の中でゴウトが悶絶していることに、大正妖都の純情は全く気づかなかった。




Ende

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白夜様というのが、日向れお様のアマラ宇宙に居られるライドウ様でございまする。
名は体を表す、と申しますか。北欧の白い夜を思い出させるような、美しく繊細な、
そして不思議な柔らかい優しさをお持ちのライ様にいつもうっとりでございます。
日向れお様。素晴らしい作品を強奪させていただき、真にありがとうございました!

※作品内のオムライス画像は、スモウレスラーサイズを売っているお店の「レギュラーサイズ」です。
そう、あれでレギュラーw。ネット上の画像をお借りしたので、今度自分で店に行って撮影してきます。