猶予



※創造主様のコメント(抜粋)

混沌のサマナーはノクタンバージョンですが、
こちらは、マニクロでカグツチの途中でライドウの世界に跳んじゃったってかんじです。




「玲治を渡してもらおうか」

影から現れた男は、ライドウに向かってラフに銃を構えて言った。
ずばぬけた長身、バランスよくついた筋肉に長い足、小さな頭にプラチナの髪に、ブルーの瞳。
端整な顔立ちの男は一目で日本人では無いと分かる。

「どちら様・・・ですか」

ライドウは何か口を開こうとした玲治をさえぎり、前に出ると外套をわずかに内側から押し上げ玲治を隠した。
ライドウの態度にその男はスッっと目を細め、口角を引き上げた。
「・・・悪魔狩り<デビルハンター>」
「悪魔狩り?」
「ダンテだ」
「ダンテ・・・」
ライドウはスッと半身を引くと、ゆっくりと自分の銃を抜きダンテへと向けた。
「なんの・・・つもりだ?」
ライドウの手のものはダンテの手のものよりも二回りほど小さい。ダンテからみれば子供のもつおもちゃと
同じにしか見えない。だが・・・ライドウの表情を見て“なるほど・・・”と口の中でつぶやいた。

“ただの粋がったガキ・・・というわけではないらしい”

「悪魔狩り・・・という割には、貴方もただの人間ではないようですが?」
「ほぉ、そこまでわかるとは大したもんだ。学生さん」
「ライドウ」
「ん?」
「私の名前です。葛葉ライドウ」
「ライドウ・・・」
呟いたダンテは眉をピクリと動かした。
「聞いたことがある・・・葛葉・・・ライドウ・・・代々同じ名前を次いでいる極東のデビルサマナー<悪魔使い>・・・」
「・・・・」
「泥臭いガキの遊び」
ニヤリと笑い挑発するダンテ。
ライドウは表情こそ動かさなかったが・・・その目の奥には青白い炎が灯った。
「ライドウ・・・・」
名を呼び彼の外套を引く玲治。ライドウはそれに振り向かず下がっていてくれと言った。
「でも、ライドウ・・・」
「玲治」
悪魔の名を呼んだのは、ライドウではなくダンテ。
彼はライドウの肩越しに玲治に微笑みかける。
「ようやく見つけたぜ。玲治」
「・・・・どうして・・・」
「急にお前がカグツチの塔から失踪したんだ。誰だって心配するさ。お前の仲魔だって向こうでお前を探し
回って、お前を待っている」
「・・・どうやって・・・」
幾分顔を青ざめさせ、唇を震わせている玲治。
それに気づかないダンテではなかったが、あえて気づかぬフリをして言葉を続ける。
「蛇の道は蛇ってな。まぁ、かなり苦労はしたが」
ライドウが口を開こうとするのとダンテは目で制す。
「帰って来い。玲治」

丸く閉じた東京。倒壊した建物。悪魔に支配された都市。
喪服の女。老人。子供。先生。友達。
カグツチ。悪魔。マネカタ。マガツヒ。

ぶるりと玲治の体が震え、それに気づいたライドウは立ち位置を少し変えてダンテの目から玲治を隠した。

「彼は帰りたくないようですが」
「・・・かもしれねぇな」
きゅっと口角を吊り上げる。
「そりゃぁ、ここの方が居心地がいいだろうよ。軸は違うようだが、ちゃんと人間の住む世界だしな。」
皮肉めいた口調。ライドウの後ろで人修羅は震えた。
「だが、ここは玲治のいる場所じゃぁない」

「そうだろ?玲治」

ダンテはライドウを透かして玲治を見る。
玲治はその視線を感じてくるりと身を翻し、背をライドウにあわせた。

「待ってよ・・・待ってよダンテ・・・」
「あぁ、いいぜ。俺は待つさ。」
「ダンテ・・・」
「何せ所詮俺にとっては他人事だ。」

突き放すような言い方に、玲治は喉の奥で小さくうめき声を上げ、両手で顔を覆った。
その玲治を肩越しに見やったライドウは、痛々しく眉を潜め・・・そしてまたダンテに向き直る。

「玲治、その学生がお前の退避先か?運命から逃げて、ここで何も考えずに、そのデビルハンターの言うように動く。それがお前の選んだ答えなのか?」
「貴様・・・・!」
きつく睨むライドウ。
ダンテはパッと銃から手を離し、トリガーの部分に指をひっかけるとそのまま両手を開き、肩をすくめて見せた。
「別に責めているわけじゃないさ。わかるだろう?玲治」
「・・・・・あぁ」
「お前がそれでいいというならば、それまでだ。俺には何の選択権もない。お前がここにいるといれば、俺は帰る。お前との一切を忘れて、俺は俺の世界で狩りを続ける」
ライドウの銃口がゆらりと揺れる。
「だが、一応、今の俺はお前に雇われてるからな。一言聞いとかなきゃいけねぇだろ?」

「お前は本当にそれでいいのか ってな」

ダンテは銃をくるりと手の中で回し、流れるような動作でそれを脇のホルスターへと収め、腕を組みラフに立つ。その表情も実に安らいだもの。
ライドウは一瞬迷ったものの、こちらは丁寧な動作で銃をしまい仁王立ちのままダンテを睨む。
「もう少しにこやかにしたらどうだ?せっかく可愛い顔をしているのに」
「・・・・」
「チッ、玲治とは別の意味で可愛げがないな」
「・・・くだらないことを言うのは止めていただきたい」
「しかも、お堅いときた」
「玲治は今はもう私の仲魔です。従ってあなたとの雇用関係も破棄されたものと見なします。」
「また乱暴な理論だな」
「今すぐ此処から立ち去りなさい。異国の悪魔狩り」
一気に自分の主張のみを口にするライドウにダンテは不快そうに眉を潜め、「だめだ」と首を振った。
そして、
「それより・・・」
と、ふとダンテが首を傾けた・・・と、思ったその瞬間、

「!?」

ライドウは横から衝撃を受け、吹っ飛んだ。
ザッと地面に叩きつけられ、慌てて体を起こすと、つい先ほどまで自分が立っていた位置にダンテが立っている。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
慌てて体を立てようとし・・・
「止めておけ」
両刃の大剣にそれを阻まれる。
「ダンテ!!!!!」
非難の声を上げる玲治。玲治の視線を横顔に感じながら、ダンテは座り込んだままのライドウをじっと睨む。
ライドウの頬には彼に殴られた跡がはっきりと残り、唇の端からは血が滴っている。
「悪いが、少しの間、口を挟まないでくれ。お前がコイツを気に入ってくれているのはよぉーくわかった。だが、これは俺と玲治の話なんだ」
「・・・・ッ・・・」
悔しそうに顔を歪めるライドウ。ダンテはニコリと微笑み、剣先をライドウに向けたまま玲治を見た。

「玲治」
「ダンテ・・・・」

二人の視線が絡み合う。
初対面で殺し合いを演じ、その後も何度も死闘を繰り広げた。
やがて二人はパートナーとなり、互いに背を預けて襲い来る悪魔を次々に塵へとかえした。

二人の頭の中をぐるぐるとめぐる数々の思い出。

「玲治」

剣を持たぬ方のダンテの手が玲治の頬を撫でる。
玲治はそのダンテの手に自分の手を添え、泣き笑いのような顔をした。

「帰って来い。玲治。ピクシーやあの白いワンコロなんか半狂乱になってるぜ」
「・・・・そう。」
「カグツチには次々に悪魔が上ってる。」
「うん」
「今は三すくみ状態みたいだがな・・・いつ均衡が崩れてもおかしくはない」
「・・・・うん」

二人の会話。
ライドウはダンテの隙を探そうとするのだが・・・・それは全く見つからない。

「仲魔だけじゃない。その意味じゃぁ、もっと多くのヤツがお前を待っている」
「・・・そう」
「戻らないのか?」

ダンテはじっと玲治を見詰める。
その目の中に非難はない。
ただ、答えを知りたいのだ。
玲治の本心を。

玲治もまたダンテをじっと見詰める。
あの狂った世界で、自分を認め、自分を立たせてくれた人。
つぶれそうな自分をたたき起こし、共に進んできた人。
彼に嘘はつきたくは無い。

「ダンテ」
「あぁ」
「もう少し、もう少しだけ待って欲しいんだ」
「・・・だから、俺は・・・」
それがお前の答えならば・・・と言いかけるダンテに玲治は首を振る。
「そうじゃない。そうじゃないダンテ。すぐ戻る。だけど、今は時間が欲しいんだ」
「玲治」
「逃げている・・・確かにそうかもしれない。だけど、もう少しで何かがつかめる気がするんだ。」
玲治はそういって微笑んだ。
「俺は・・・あの世界で流されてばかりだった気がする。もちろん、考えて動いてはいたつもりだけど・・・だけど、やっぱり流されてたんだ。・・・俺が悪魔になったとき、カグツチは言った。俺には空っぽだって。・・・うん。そうなんだ。俺、空っぽだったんだ。そんなことないって思ってたけど、やっぱり空っぽだったんだ」
「そんなことは・・・」
「いや、そうなんだよ」
玲治は自嘲気味に笑うと、頬に添えられたダンテの手をそっと払った。
「だけど、此処に来て、ようやく俺も少し考えてる」
玲治はライドウに目を向ける。
その穏やかな顔にダンテは小さく息を呑んだ。
「ようやく。何かつかめそうな気がするんだ」
その表情は今までダンテが知らなかったもの。
決してボルテクスで彼が見せなかった表情。
「だから」

「もう少し待って欲しい」

玲治の言葉にライドウに向けていた剣先がゆっくりと下がり、地面に落ちる。
そして、くるりと持ち上げるとそれで肩へとをトントンと叩いた。

「チッ、これじゃ、まるきり俺が悪役じゃねぇか」

ダンテは言ってため息をつく。
玲治はクスリと笑ってダンテからライドウの元へと駆けた。
そしてライドウが立つのを手伝ってやり、それから傷口にそっと指を当てる。
ライドウが小さく悲鳴を上げると、玲治が大丈夫かと聞き、ライドウがそれに頷く。
その睦まじいようなしぐさに・・・やってられないというようにダンテは首を振った。

「・・・まぁいいさ。」

「おい、ライドウとやら」
ダンテの声にライドウが顔を上げると、ダンテが銃の形に指を作り人差し指をライドウに向けていた。
「今だけは玲治を預けといてやる」
「・・・・」
「まぁ、どうせ、玲治はこっちに戻ってくるんだ。慌てることはないよな?」
ニヤリと笑うダンテ。
彼の挑発の意味がつかめず首を傾ぐ玲治と、不快げに眉を潜めるライドウ。
二人の表情を交互に見比べダンテは肩を震わせて笑い、BANG!とでもいうように、指をトンっと上に振り上げた。
そして、

「じゃぁな。玲治。待ってるぜ」

サッとその手を振ると背を向ける。

去っていく背中に
「気障」
玲治は笑い、ライドウは不機嫌な顔のまま視線を逸らした。




End

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玲治様というのが、あみ様のアマラ宇宙に居られる人修羅様でございます。
この御方、強くて可愛くて優しいという、MY人修羅属性パラメータMAXでおられる上に
料理はプロ級だわ、ダンテさんとも仲いいわで、サイトを伺うたびに悶絶です。

あみ様のサイトEGREGOROI様にて、10万打hit記念にリクエストを募っておられるのを見て、
自分の日頃の行いも省みず、無謀にも「ダンテさんとライドウさんの人修羅さん挟んでバトル」を
お願いしたところ、寛大にもこのような素晴らしい作品を・・・っ!!
(先様にはご迷惑でしたでしょうが、もう「よくやった!自分!!」って気分満載です)

あみ様、素晴らしい作品をいただきまして、本当にありがとうございます!!