太占





ふ、と、間に入ってきたそいつは。
オレを見て、懐かしそうに、笑いやがった。






そいつは、オレのナイフに腕を刺されているくせに、嬉しそうに。
「間に合って、良かった」なんて、抜かしやがる。

何で、オレに言うんだよ。
そんな台詞は、オレじゃなくて。
そっちで腰を抜かしてるおっさんに言えよ。

「ふざけんな!邪魔しやがって!!」

毒づいても、そいつの笑顔は変わらない。
何で、そんなに優しく、オレに笑いかけるんだよ。
オレは、今お前を傷つけたナイフを持っている当の本人だろうが!

ムカつく。
ギリ、と、睨みつけるオレに、そいつはビビる素振りも見せない。

イラつく。
そうだよな。お前にとっちゃ、これぐらいの数のヒトなんか、何の恐怖にもならない。
お前にとっちゃ、それぐらいの傷なんか、かすり傷以下、だろうよ。

けどさ。
お前、そのおっさんと知り合いでも何でもねーんだろ?
それなのに、そいつを庇って、ケガして。・・・バカかよ。
お前はいつもそうだ。お人よしで、他の奴に利用されて、ばっかで。

――― でも、オレもお前をそうやって、利用して・・・。

・・・え?
オレ、何考えてるんだ。
コイツとは、今が初対面、のハズだよな。

「リーダー、ヤバイぜ!早くずらかんねーと!!」
見張りの手下が焦った声で、叫んでくる。

ち。
騒ぎを聞きつけた、近くのポリ公がやってきたか。

くそ。計画変更か。
全部、コイツの邪魔のせいで。

睨みつけて、早口で、訊ねる。
「・・・お前、名前、何てーんだ?」

帰るのは、のんびりとした、答え。
「次に、会えた時に、言うよ」

ふざけやがって。
と、一瞬、覚えた殺意、に似た衝動は。

ポタリ、と地面に落ちた、そいつの血の色で、止められた。









(すまない。また、君は僕を助けるために、傷ついたのだね)






Ende

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太占はフトミミさんの名前の語源イチオシの言葉。
読み方はフトマニ。ファンの方にとっては常識?
助けられたおっさんは、もちろん彼でしょう。