死 ん だ 兵 士 の 残 し た も の は
こ わ れ た 銃 と ゆ が ん だ 地 球
「なあに、それ?」
「詩、だよ。ピクシー」
南の果て、と聞けば。
北半球に住む住人なら、多くが、何故か、暑い南の国を思うだろう。
北の果て、という響きが、決まって、凍てついた氷の大地を思わせるように。
「ホクトが詩なんて、何だか似合わなーい」
「妹が、そういうの、好きでな。何度も聞かされて、自然に覚えた」
だが、今、俺が立つのは。
この星の南の極。
氷で覆われた、極寒の地。
――― の、はずだったのだが。
「でも、ちょっと、変わった詩だね。なんてゆーか、ウシロ向き?」
「ふ。そうだな。そこだけ、聞けば、そうだ」
俺の視界。いや。
デモニカスーツが支配する俺の視力の在り様では、ここにあるのは、無毛の地じゃない。
戦場だ。
軍用機が飛び交い、爆撃し、人の住む街を火の海に変え、破壊し、蹂躙する。赤い熱い地。
まるで、性質の悪いジョークでも見ているような。
「じゃあ、続きはどんなの」
「ええと、たしか」
他 に は 何 も 残 せ な か っ た
平 和 ひ と つ 残 せ な か っ た
「やっぱり、暗ーい」
質のいい冗談を聞いたように、ピクシーがくすくすと笑う。
「でも、ヒトにしちゃ、自分達のこと、”よ く 分 か っ て る ”ねぇ!」
と続けられて。俺は苦笑する。
褒められているのか、貶されているのか、分からない。
・・・でも。
彼女の言うことは。
正しい。
◇◆◇
シュバルツバース。
今、俺たちが在る、土地。
ドイツ人の博士が名づけたというその名称。
シュバルツバルトは黒い森。では、シュバルツバースは黒い、何、なのだ。
船内で見せられた、その真実の映像を見て、俺は思った。
これは、地球の子宮に繋がる、「黒い産道」では、無いのかと。
・・・地球は、何かを、産み落とそうと、しているのかも、しれないと。
――― では、母なる女神は、"誰"に、"何"を、孕ませられたのだろうか。
そして、その産道を潜ろうとする、俺たちは、この地で悪魔と。
いや、デモニカスーツが悪魔という情報で示す、彼女達と出会った。
では。新しく産まれるのは悪魔か。
母神が選ぶのは地獄か。平和ひとつ残せぬ俺達人間を排除する為の。
◇◆◇
「ホクトぉ!まーた何か考え込んでるぅ」
「ああ、ごめん。ピクシー。お前は話好き、なのに、すまないな」
初めての仲魔。会話の方法すら分からない俺に話しかけてきてくれた、優しい妖精。
迷っている人は好きなの、と言っていたか。迷いながらも先に進もうとする人が、と。
かつて、彼女が一番大好きだったヒトが、やはり日本人で、”そう”だった、と。
「それで、さっきのは、あの暗いので終わり、なのぉ?」
「いや」
死 ん だ か れ ら の 残 し た も の は
生 き て る わ た し 生 き て る あ な た
他 に は 誰 も 残 っ て い な い
他 に は 誰 も 残 っ て い な い
「・・・今の、わたしと、ホクトみたい?」
「くす。そうだな。そこだけ、聞けばな」
そう話す俺たちの背後には、先ほど全滅させた悪魔の群れ。
確かに、死んだ悪魔の残したものは、生きて強くなった俺とお前だ。
いつか、その立場が逆転するときが来るとしても、今は、他 に は 誰 も 残 っ て い な い。
「ヒトって、面白いねぇ。詩にするぐらい、自分たちが悪いって分かってて、変われないんだ」
「・・・そう、だな。でも、この詩は、最後は、ちょっと違うんだよ」
(ミナミ、お前が俺に教える詩は、いつも、そうだ。何かを示し、何かを救う。
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、俺が今まで、生きてこれたのは、きっと。
そうやって、お前が俺に、その希望をくれて、いるから)
「明るいの?」
「・・・うん。ヒトだからな。きっと、最後に、希望は、残しておきたいんだよ」
たとえ、それが、この。
黒い、パンドラの箱の中、でも。
死 ん だ 歴 史 の 残 し た も の は
輝 く 今 日 と ま た 来 る 明 日
他 に は 何 も 残 っ て い な い
他 に は 何 も 残 っ て い な い
Ende
SJ部屋top
主人公の名は北斗、妹の名は南。・・・ええい、この卑怯モノめw。
そして、SFファンなら、こいつやりやがったな!の題名で申し訳ありません
崇敬するレイ=ブラッドベリ様と谷川俊太郎様に敬意を表して。