"B" is for Bootes. 〜BはBootesのB〜



遠い 遠い 処へ 来て、
わたしは 今 へんな 街を 見て居る。

(与謝野晶子)






「・・・♪ ボ ー テ ィ ー ズ ♪って、聞こえるな・・・」
「「「「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」」」」

いや、ほら、あの曲?が。と答えるホクトに。
新しいエリアの探索から一旦戻り、ビキビキに緊張していた周囲は、一気に和む。

「はっはー。ホクト、お前、お堅いヤツかと思ってたら、結構・・・」
「くっくっ。戦争しねー平和な国から来ておいて、いきなりアントリアで勲功上げた英雄サンが」
「・・・ぷ。いきなり、何を歌い出したかと思ったら」

「「「「「「「「「「「♪ ボ ー テ ィ ー ズ ♪だってよ」」」」」」」」」」」

うわ。俺、もう、そうとしか聞けなくなってきた。
お、おれもだ。くそ。笑いが、止まらねぇっ!
真面目なヤツが、素で言うjokeって、すげー破壊力だよな!!!

「・・・」
娯楽に餓えているからか。
はたまた、これまでの緊張が強すぎたからか。
自分がふと落とした他愛の無い感想に、笑い転げる周囲を見て、ホクトは沈黙する。


「なんだ、なんだぁ。この騒ぎは」
笑いが止まらず、床をバンバンし出す仲間を見て、後から帰ってきたヒメネスが驚く。

「ひ、ひめねす、おまえも 聞け!」
いいから、ホクトに歌ってもらえ、と皆に促されて。
ヒメネスは、皆からアンコールを受けて、憮然、としたホクトの顔に視点を合わせた。




◇◆◇



「そ、そりゃ、笑うぜ。ホクトぉ!!」
「そう、なのか」

例に漏れず、この一見、口の悪い、しかし信頼のおける仲間もホクトの歌を聞いて、大爆笑した。
やっと、その笑いが止まり、笑いすぎてその眼の端に浮かんだ涙を擦る彼を見て、やはりホクトは納得いかないように首を傾げる。

「ほんと、お前って、真面目で融通きかない頭でっかちの優等生、かと思ってたら」
やるじゃん。
お陰ですんげー緊張して、暗かったヤツラが皆、明るくなったぞ。
少なくとも、この曲が聞こえるエリアでは少しは楽しく作業ができるだろうよ。
嫌な、ことを、少しは、忘れて、と。

ヒメネスの声が真面目になったことに、ホクトは気付く。

嫌な、こと、とは。聞くまでも無い。
俺達は、既に、たくさんのモノを失った。
そして、これ以上失わない為に、先へ進む。

「疲れたか、ヒメネス」
「いや。とりあえずは、ビーコンさえ打ち上げりゃ、先の目処も少しは付くだろうし」
やるべきミッションがある、っていうだけでも、救われる。

「そういう点では、アーサーの指示出しは、うまいことやってやがる、とは思う」
思うんだが、やっぱり、俺は。

「あまり、合わないか。アーサーと」
「正直な、とこ、な」
機械にまんま使われてる、ってさ。霊長類、としてどうよ、とか思うんだが。
ま、デモニカスーツに支配されている時点で、そう思うのも空しいが。

「それより、ホクト」
「何だ?」
「この町、じゃねぇ、このエリアの外観、どう、思う?」
「・・・」

ボーティーズ。
極彩色の、歓楽街を思わせるエリア。
迷い込んだ、BGMの異なる建物の中では、怪しげな女性らしき影まで見えた。

「アントリアでは、戦場、だっただろ」
俺、あれは悪魔の罠としては、うまいな、と思ったんだが。
「・・・俺たちにとっては、地獄の象徴、だからな」

珍しく、スッと言葉を返すホクトにヒメネスは驚いたように眼を瞬かせ、笑った。
お前もやっぱり、そう思ってたか、と。

「じゃあ、ホクト。お前は、この歓楽街を、どう見る?」
「・・・」
「戦場以上の地獄だろうってか?・・・ハッ。悪魔共のjokeもcoolなことで!」
「・・・まあ、南極、だからな」
「・・・へ?」
「いや。・・・だから、cool、だよな、と・・・ヒメ、ネス?」

再び、笑い転げ始めた仲間を見ながら。
何がウケたのかは分からないが、彼の笑顔が戻って、とりあえずは良かった、とホクトは思った。



◇◆◇



俺は、少し怖いぜ、ホクト。
何が?

エリアが進むたびに、見える風景が、どう変わるか。
・・・そう、だな。

(でも、お前と一緒なら)
ん?

いや、今日は thank you。
?何も、していないが。

笑わせて、くれた。
・・・ああ。

礼だ、と言って、ス、とホクトの頬を唇で掠めた彼は。
驚くでもなく、赤くなるでもなく、ただ、きょとん、とした彼に。
ただの挨拶だよ、と、困ったように笑った。




Ende

SJ部屋top





あ、あれ?姫?君はむしろ右なのに。ウチ的に。いや、こ、これぐらいなら健全と言い張るぞ!!

♪ボーティーズ♪、は絶対に作曲者が狙っていると思うのだが。