Is "D" for Delphinus? 〜Dは イルカ座のD?〜





汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる






「ケダイって何?ホクト」
「・・・聞いていたのか、ゼレーニン」

中也の代表作を最後まで口ずさんだ俺の後ろから、突然に声がする。
デモニカの高機能は、クルーの母国語のすべてをほぼ完璧に翻訳し、相手に伝えてくれる。
だが、詩的な表現や、スラングなど、あまりに細かいものまではさすがに網羅していない。

聞かれていたことが、気恥ずかしくて、俺は言葉を詰まらせるが、頓着する様子は彼女には無い。
・・・ああ、そういえば彼女は“科学者”だったな、と思い直して、俺は質問に答える。

「倦怠ってのは、・・・怠惰、怠けるって意味だと、思う」
「・・・そう。”汚れちまった悲しみ”・・・不思議な、シね」

何の気なしに。いや、俺のことを思って使ってくれたはずの単語にビクリと、する。

「・・・シ?」
「詩、って言うんでしょ。あなたの国では」
「よく知ってるな?」
(勉強したのよ。あなたと話したくて)

「・・・え」
「何でもないわ、それより」
どういう意味が、あるの?

「さっきの、詩?」
「Да」





汚れつちまつた悲しみは たとへば狐の革裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかつてちぢこまる






・・・詩なんてものは、読んだ人が、感じたとおり、思ったとおりに受け取ればいい、とは思うが。
そう前置きして。

俗説としては、こういう事件があったらしいと俺が為した、その詩の背景の説明に。
ロシアから来た美しい女性は、なぜかひどく、動揺して、見えた。

じゃあ、また、と、どこか逃げるように立ち去る彼女の背中を見送って。
あまり、女性に言う内容では無かったな。と、俺は溜息をつく。
“科学者”のスタンス色が強い人だから、一つのデータとして処理するかと思ったのに。

どこか申し訳なくて、自分の説明を思い返す。
無粋な翻訳を通して、何か、問題のある表現を使わなかっただろうかと。





「ええと。確かその頃に、作者の、中原中也の恋人が、彼の友人と、恋仲に」
「彼を裏切って?」
「結果的にはそう、だが。中也自身、恋人に去られても当然な、言動が多かったらしい」
「そうね、芸術家、特に詩人って、そういう、精神的に不安定な人、多いわね。ヴェルレーヌとか」

不安定の代表格を挙げるゼレーニンの声を聞きながら、俺も記憶をひっくり返す。

ヴェルレーヌ。17歳の天才少年ランボオに溺れ、共に放浪した詩人。己の妻と子供を捨てて。
二人の愛の終末は数年後。彼がランボオに銃口を向け・・・。一人は病院に、一人は警察へと。

ああ、そういえば、中也の恋人を結果的に奪ったのは、そのランボオに詳しい男だったなと。
白い肌の美しい女科学者の呟きを聞きながら、ホクトはぼんやりと思い。

「じゃあ、汚されたのは、彼の心、彼女への想いなのかしら?」
「どう。だろうな。中也が自分の心をそれほど“浄い”と思っていたかどうか・・・」
むしろ。逆、だろうな。

一瞬、息を詰めたようなゼレーニンが無理やりに落ち着かせたような声を出した。

「では、・・・汚された(・・・・・)のは、彼女? そして、汚したのは・・・」
「詩としてはそう読みたくはない、けどな」






汚れつちまつた悲しみは なにのぞむなくねがうなく
汚れつちまつた悲しみは 倦怠のうちに死を夢む








「どう、だね。ホクト。新しいセクターの感想は」
「・・・君、か。ルイ。・・・また、会えたな」

夢か、幻か、分からない状況下で、俺はいつかの少女に出会う。
親しげに微笑む彼女の表情からは、やはり、その本心を見抜くことはできない。

「・・・ふふ、ホクト。・・・君は本当に変わっている」
「変わっている?何が、だ?」

「私と邂逅して動じないどころか、嬉しげな風情を見せるヒトなぞ、あまり、居なかったものでね」
「そうか・・・。じゃあ、これまで、寂しかった、だろう。ルイ」

一瞬、虚を突かれたような表情を、するルイに。何か悪いことを言っただろうかと焦る。

「す、すまない。何か、気に障っただろうか?」
「・・・・・・。本当に、君は・・・天然、だねぇ」
「?」

まあいい。質問に答えたまえ。どう、感じたのだね?ホクト。新しいセクターは。
・・・何かの、罪、ではないかと。

「罪、かい?」
ふふ、と、嬉しそうにルイは笑う。その笑顔は、俺には、愛しい。

「ああ。アントリアの戦場、では、はっきりとは分からなかったが」
ボーティーズの歓楽街は、色欲。・・・志向性の強いものを含めてな。
そして、カリーナのショッピングモールは、あからさまに強欲、や、暴食だろう。

ふふ。豚が支配していたからね。確かにあからさま、だ。では、ホクト。
「ここでは何の、罪だと?」

さっきのゼレーニンとの会話を思い出して、俺は少し答えるのを躊躇する。
まさか、この目の前の、少女の容をした魔が、逃げ去るわけも、ないだろうが。

「・・・人が汚した、もの」
「それは、何?」

よく、分からない。いや、分かりたくないのかも、しれない。あまりに深い罪、だから。
ただ、これまでのセクターで感じた嫌悪感、よりも、ここでは。

「ここでは?」
「ひどく罪悪感を、持つ」

「罪悪感」
断罪のような少女の声に、俺はそうだと返す。

「きっと、俺たちは何かを汚してきた。完膚なきまでに穢してきた。犯してはいけない何かを」

・・・なるほどね。やはり、君はよく解って(・・・・・)いる。

満足気に微笑む少女の表情は、触れることの出来ない夢のように、美しい。






じゃあ、ヒントをあげよう。ホクト。
ヒント?

君ならきっと分かる。そのヒントで。
・・・言ってみて、くれ。

知っているかい。ホクト。「デルファイナス」の本来の意味を。
・・・いや。



――― 「 子 宮 」、 だ よ 。










汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気(おぢけ)づき




汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……








Ende

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ソレはヒトの男系社会が、宗教という言い訳の元に、犯し奪い陵辱し続けてきたモノ。
・・・その罪を延々と突きつけられる奇妙な旅。


※Да は Da 。ロシア語で Yes(はい、ええ)の意味。


以下反転↓ Fのネタばれ含みます。ご注意を

もう、お察し下さい!な創作ですみません!!ストレートに書くのが怖くて逃げまくりました!

ホントに、デルファイナス=イルカって、本来「子宮」って意味なんですよね・・・。
発売前に「バースって確か隠語で、女陰って意味もあるけど”黒い女陰”ってwwwまさか」
とか、呟いていた管理人は、もう、ひいいいい。アトラス様やりすぎですぅ!!

ほんでもって、ボスのアスラ様はやっぱり後から女体化してアシェラト様になるし!
もう女神転生様ったら・・・一生ついていきます。

あと。とても有名な中也の詩は、そういう見方もある、ということですが。
同じく「子宮」を汚された、という隠喩で・・・。はい。お察しください。