信仰



「そういえば、ホクトさー」
某クルーが、何の気なしに投げた質問は、レッドスプライト号一の“天然”の眉間にしわを寄せた。



「何だ、なんだぁ、めずらしいじゃねぇか、ホクト」
お前が仲間の質問にも答えずに、黙りこくるとはよ。

いい意味でも悪い意味でも、場を読まぬヒメネスがこれほどに皆に感謝されることは初めてだろう。
ホクトが固まって返事もしてくれないんだ!頼むから、来てくれ!!と妙なミッションを依頼された
ヒメネスが、その鉄の毛の生えた心臓で、それでもどこかおっかなびっくりに尋ねても。

何気ないはずの質問に、むっつりと黙ったままのホクトは、やはり眉間のしわを解除しない。

(な、なぁ、いったい、誰が、何を聞いたんだ)
(い、いや。アンソニーが、だな)
(((((アンソニーだとぉ!!)))))

その名を聞いて、微妙にクルー達は気を逆立てる。

その問題の彼の名はアンソニー。
場を読まぬことヒメネスのごとし、視野が広がらぬことゼレーニンのごとし。
何故かとっとと早死にして、そばかすなんて気にしない女の子を泣かせそうな名前を持ちながら、
一向に女を泣かすどころか、逆に泣かされ続けて幾星霜。
男性クルーの中では、話すだけで、もてない菌が移りそうだ、と忌避されるほどの、その男が。
いまやレッドスプライト号の星、男女問わず総落し状態と言ってもいい、ホクトにいったい何を!

(あ、あの野郎、さんざん、俺のホクトを青春カウンセラー代わりにこきつかっておいて)
(今度はまた、何を言いやがった。くそ。事と次第によっては吊し上げだ!)
(どうせ、デリカシーのない発言をしたんじゃないか?何しろ、アンソニーだぞ)
(おい、待て。一人目のやつ。“俺の”ホクトとはどういうことだ)

と。
自分達が投げたデントの依頼を、几帳面に拾ってやった北斗に尊敬以上の念を持つ彼らは憤る。


そんな、ある意味、井戸端会議状態な男性陣を尻目に。
「ねえ、アンソニー」
「お話があるんだけど」
微妙な笑顔をたたえながら、女性陣はアンソニーの周囲に集う。

お、俺にもやっとモテ期がやってきたか!
これも皆、相談にのってくれたホクトと、愛の調教を施してくれた女悪魔のおかげ!!

・・・などと、女性クルーに取り囲まれて狂喜していたアンソニーにもたらされたのは。

「「「「「ホクトに一体、何を言ったのか、キリキリ吐いてもらいましょうかっ!!」」」」」

・・・ますます女悪魔への愛着度が深まりそうな、恐ろしい言葉だった。



◇◆◇



混迷を極める周囲をよそに、意外に任務にまじめなヒメネスはミッションを継続する。

「ええっと、『どうして、南極に来るはめになったんだ』って、聞かれただけか?」
ヒメネスの言葉に、むっつりとしたままうなずく北斗を見ながら、皆は首をひねる。

(そういや、そうだな。俺たちは国の軍関係、だから、要請も多かったし)
(ああ。実際俺たちの国からのクルーがほとんど、だよな)
(俺も不思議に思ってたんだよ。何でわざわざあんなクソ平和な国からって)
(確かにめちゃくちゃ優秀だし、性格もいいし、ムードメーカーだし)
(天然だし、優しいし、面白いし、かっこ可愛いし)
(肌もすべすべつるつるだぜー。東洋人っていいよなぁ)
(待て、貴様。いつ、ホクトの肌を触った!!)

・・・話が逸れつつあるクルーだが、あまりのホクトの不機嫌さに、
もしや無理やり参加させられたのか、そんなに辛い過去があったのか、それならそうと言ってくれればいつでも俺が、いや僕が、いや私が慰めてあげるのに!!と、心中で叫びながらヒメネスとの会話に耳をそばだてる。

「・・・日本のとある国連関係者に、だな。ものすごい勢いで推薦されたんだ」
「はぁ」
「・・・そのとある国連関係者、が、とある・・・に傾倒していて、だな」
「あ?とある・・・何だって?」
「・・・いや、一種の宗教のような、もの、なんだが」
「その宗教と、お前の推薦と、何の関係があるんだ?お前もその信者なのか?ホクト」

なるほど宗教がらみで無理やりに推薦されたか、それは思い出すのもムカつくだろうと、ヒメネスは納得しかけるが。

「・・・いや。テレビ放映時は声優も良かったし、嫌いでは無かったが。”信者”というほどでは」
「は?テレビ?せいゆう?」
「オリジナルDVDは、筋と絵はいいんだが・・・声優の棒読みが許せ無くてな」
「・・・お前、何を言ってるんだ?」
「だから、その国連関係者が、俺の名前を知ったとたんに、だな」



「これこそ、正に・・・・・・・・・ですよ!!皆さん!!」
「おお!」
「!・・・救世主伝説!!」
「そ、そうだ。そうに違いない!!」
「おお、伝説は真実だった・・・」
「退かぬ!!媚びぬ省みぬ!!」
「運は我にあり〜!」
「わが生涯に一片の悔いなし!!」
「人類は死滅してはいなかった!!」
「おい、おまえ!おれの名をいってみろ!!」
「ひでぶ!」
「あべし!」
「・・・よし、これで地球は救われたも同然だ!!」



と。
隠れ信者が山ほど居たその会議場で。
ものすごい勢いで話が進み。
全員で、その有名すぎる言葉を叫んで。
・・・満場一致で、俺に決まったと聞いたときは。

「思い切り頭痛がして、だな」
「・・・その、有名すぎる、言葉、って、何だ?」
「・・・」

そう、いまや親友と言ってもいい男から、問いかけられて。
レッドスプライト号のポーラスターである彼は。
もう二度と聞きたくないその言葉を。
頭の中で反芻した。





南斗 乱れるとき、北斗 あらわる!!




Ende

SJ部屋top





すみません。ずっと、頭から離れなくてw。
そして、ゆりこユリア・・・。すべての感動を打ち消す最終兵器な棒読みは、やはり許せません。
・・・さすが、南斗最後の将?