まつとしきかば 1



たちわかれ いなばの やまの みねに おふる まつとし きかば いま かえりこむ
(貴方と別れて、因幡の山に行く私ですが、因幡山の峰に生える松のように、
貴方が私を待っていると聞いたならば、すぐにでも帰ってきましょう)


〜中納言行平 『古今集』より




「前から聞きたかったことがあるのですが」

戦いと戦いの狭間。しばしの休息の時間。
またか〜と思いつつ、シュラはライドウの方にぐるんと顔を向けた。
「お前ね、どうしてそういつもいつも唐突に話を振るんだよ!」

この14代目葛葉ライドウと名乗る男は、容姿端麗な上に実力も兼ね備えた“歩く(……いや、走って打って切りつけてくる) 才色兼備さん”だが、その普段の行動はどうも予測の範疇の斜め135度上方あたり(異論は認める)に位置することが往々にしてある。


現に今も。

「俺がゴウトさんと楽しくしゃべってる真っ最中、それも言葉の切れ目でも無いときに、どうしてそう
普通に淡々と話をぶったぎってくれるわけ?」

な、わけだ。


再現してみると、

シュラ「そういえば、ゴウトさんの好きな食べ物って何ですか?」
ゴウト「我か。そうだな、魚系はいずれも好みだが」
シュラ「やっぱり猫の形をとっていると、そうなるんですか?実は俺、割と料理得意なんで、 いつか機会があったらゴウトさんに俺のてりょう」
ライドウ「前から聞きたかったことがあるのですが」

……こんな感じだ。


「すみません」
軽く頭を下げるライドウだが、まったく反省していないのは一目瞭然だ。
「あーもー。慣れたからいーけど。……で?」
「はい?」
「どーせ、答えるまで延々と聞き続けるだろ?聞きたいことって何?」

かなり投げやりっぽくだが、そうシュラに言われてライドウの瞳が少し開き、
それからほんの少し、目が弧を描く。

(あ、少しご機嫌だ)

近頃ちょっとずつだが、ライドウの微妙な表情の変化がわかるようになってきたシュラは何だか
嬉しくなった。

(そーいや、近所の警察官がこんな犬飼ってたなー。ドーベルマンだったっけ。ご主人様の命令 以外にはピクリとも動きません!って感じだったけど、慣れたら無表情にボール咥えて俺のトコにやってきたな〜)

……モコイさんが読心術をすれば、その場が少々荒れそうなことを考えるシュラである。


「シュラはなぜ、そんなにゴウトが好きなのですか?」
「はいぃぃ?」

まったく違うことを考えていたので、いきなりと言えばいきなりな質問にシュラはこけそうになり、
(何を言い出すんだ、この立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、戦う姿は日本刀な美人
さんは?)と、これまた明後日の方向に思考を飛ばす。

「い、いきなり何の話かな?ライドウ、さん?」
「貴方、ゴウトにだけは、敬語ですよね。邪神や大天使相手でもタメ口なのに」
「そ、それはやっぱ、その人から滲み出る経験の差?ってものが俺にそうさせるんだよ。」

―――見ると、横でゴウトがうんうんと頷いている。

「休憩になれば必ずゴウトと話しますよね」
「う。だ、だって、ゴウトさん、戦闘中はお話できないし」
「……戦闘中は貴方、ほとんど指示しか出さないでしょう?そんなこと言ったら、後の総勢11名の
お供が泣きながらどこかに走って行きますよ?」

―――見ると、後で仲魔たちがうるうるしている。

「だ、だって、ゴウトさん、猫だもん!」
「・・・はい?」
「俺、猫には弱いんだもん!」

―――開き直ったように叫ぶその言葉に。オセ戦のときの大変さ(なぜかシュラだけオセを攻撃できない、どころかHP削られて苦しそうなオセに宝玉を使おうとする始末)や、ネコマタがセンリに変わったときの落ち込みよう(「うん。アレも猫だけど、猫だけど猫だけど猫だけど・・・」と呟きながら、カグツチ3周分 天岩戸状態)を思い出し、仲魔たちは心の中で溜息をついた。



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