「ところで、居なくなった猫が帰ってくるおまじない、とは何だ。ゴウト」
『ん?ああ、さっきの話か。あれは確か、和歌の』
「たちわかれ いなばの やまの みねに おふる まつとし きかば いま かえりこむ」
ゴウトとライドウが振り向くと、仲魔たちをさんざんゴロゴロさせてご満悦なシュラが立っていた。
「そう紙に書いて、裏返して戸口に張るんだ。他のやり方もあるみたいだけど」
大叔父はそうしてた」と、言いながら、あーあれだけ撫でると疲れた〜と、ライドウの横に座り込む。
「今、思えば。結局そのときは帰ってきてくれなかったけど、あのおまじないをしていることで、
どっか救われてた気がするよ」
「その歌で、ですか」
「うん。ライドウの方が和歌の意味、俺より分かるだろ」
「大体は」
「お前を待ってるよ、お前が帰ってくるのをこんなに待ってるんだよ。だからすぐに帰ってきてって言い続けてるような、おまじないだろ」
だから、ちょっと気持ちが楽になったんだ、というシュラに
「……そうですね」
とライドウは一言だけ返した。
「なあ、ライドウ」
しばらくの沈黙の後、シュラがライドウにポツリと言葉を落とす。
「何ですか」
「俺、お前のこと、好きみたい」
「そうですか。……って、え!えぇっ!?」
『ほう』
「初めて会ったときから、何度も酷い目に遭ったのに、どうしてかお前のこと憎めなくてさ」
「……は(混乱中)」
「何でかな〜って、ずっと思ってたんだけど」
「……な(混乱中)」
「さっき、分かったんだ。お前、俺の大好きだった猫に、そっくりなんだよ!」
「……猫の話ですか」
『猫、の話だな』
そして、その後。
彼が愛し、その死後も愛し続けているその猫がいかに強く、優しく、賢く、美しく、気高かったかを滔々と語り続けるシュラの横で、ライドウはただ脱力し、ゴウトはそんなライドウを憐みの目で見るのだった。
それ以降。
休憩になれば、ゴウトだけでなく、ライドウと楽しげに話すシュラが頻繁に見受けられ、泣きながらどこかに走り去っていく仲魔が増えたとか、増えないとか。
Ende