今から、どこに行くの?と、俺と同じ顔でカイは言う。そろそろアマラ神殿?と。
そうだよ、と、俺は答える。
俺の心は、コトワリは、もう決まっているから。
きっとアイツは、あの鉄面皮の下で、ハラハラして待ってるから、早く行ってやらないと。
「納得、できたんだ?」
優しく笑うカイに、うん、と、俺はうなずく。アイツは、とても、優しいヤツだから、と。
「優しい?」
おかしそうに、カイは笑う。前の世界の全てを消去した人間が?と。
「優しすぎるから、そう、したんだろ?」
お前だって、ホントは、分かってるくせに、と俺が笑うと、そうだな、とカイもまた、笑った。
◇◆◇
・・・本当は、見てみぬ振りだって、きっとできた。
アイツの寿命ぐらいは、世界の命数は、もっただろう。
無視すれば良かったのに、知らぬ振りを通せば、楽に生きれたのに。
――― 他の人間と同じように。
でもアイツは、きっと、見過ごせなかった。許せなかった。
少しずつ崩れ、壊れ、醜く腐り果てていく、世界を、人間たちを。
そのままでは、いつか何もかもが。永遠に無かったものになるのが、解っていたから。
だから全てが失われ、無となるその前に、動いたんだ。恐らく、自分の心もイケニエにして。
――― 馬鹿だな。……放っておけば、良かったのに。
って、俺なら思うし、実際、思った。今でも、少しはそう思ってる。でも。
「あんな馬鹿がつくほどのお人好し、放っておけないと、思わないか?カイ?」
世界の破壊者としての汚名を被るのを承知で、腐っていく世界を救おうとするなんて。
その問いに黙って答を返すカイの瞳は優しい。優しくて、深い。母さんのように。
「もう、揺るがない?」
後悔しないね、とカイが尋ねる、その声は透明で、静かだ。俺が選んだ理のように。
「揺るがないよ」
死にかけた世界の、残り全てを賭けてまで、その代償となる心の激痛を覚悟してまで。
それでも、アイツが創りたいと願う新しい世界を、俺も。
「見てみたい」
◇◆◇
「主様!」
「静夜!!」
……あ、れ? 俺……。
ええっと。確か、これからアマラ神殿に行こうって、ことになって。
「もう!いきなり倒れるから、どうしたのかと思ったじゃない!」
ぽかぽか、と、その可愛い拳で胸を叩かれて。ごめん、ピクシーと俺は笑う。
「何かに、喚ばれたか」
固い声で尋ねるクロトに、多分な、と俺は答える。お約束で詳細は覚えてないけどさ、と。
答えるついでに、にこ、と笑ってやっても、どこか緊張を解かない仲魔たちに。
俺は、ふあぁ、と、あくびをしてやる。よく寝たから、すっきりしたよ、と。
それでもどこか心配そうな面々に、心の中で溜息をつく。
(こういう生真面目で融通利かない所も、シジマの共通点なのかなー)
ペットは主人に似るっていうけど、絶対、俺には似てないぞ。この心配性共め。
と。
我らが心配性なのは、貴方のせいでしょうが!と、仲魔全員が合唱しそうな思考を巡らしながら。
「悪い、心配かけたな。もう、大丈夫だから」と。
静かな夜、と名付けられた人修羅はスクと、勢いよく、立ち上がる。
その無駄な力の入らぬ姿は揺ぎ無く。その金の瞳が見据える先は迷い無く。
ひざまずきたいほどのオーラを放ちながら、彼は、何でもないように言葉を放った。
「じゃあ、そろそろ、行くか」
世界を救う為に自分を破壊者に仕立て上げた、史上最強のお人好しに、会いに。