サキサダマリテ 02






君の心の音が

聞こえない静寂など

いらなかった





「どうして、“遊んだ”の?」
「しょせん、遊戯だ」
「何が?」
「何も、かもが?」

本当は。
遊ばれたのは私のほうだ。君はどこまで強く美しくなれば気が済むのか。
そう詰るのは憚られて、それ以上の言は落とさぬ私を見ながら。
少年のカタチをしたソレは怪訝そうに首を傾げる。

創世の悪魔。今生での人の名はカオル。選んだ名はシュラ。
ミロク経典に記されし大いなる魔物。
ただひたすらに修羅の道を堕ちていく哀しい生き物。

――― “初めて”君に出会ったのは、いつのことだっただろう。

君の事を本当の意味で思い出したのは、アーリマンを降ろした後。
虚無を司る呪われし神の身は一瞬で全てを把握し、理解し、そして憂いた。

また巡っていたのか。運命を。また巡りあえたのか。君に。けれど今生では。


……君は違う理を、選んだか。
おそらくは、新しいルートを開くために。
おそらくは、これ以上繰り返さないために。

感じたのは微かな落胆と、そして深い安堵。
では、もう私は。君を“失う”ことは無い。少なくとも今生では。


「戦う気が無かったとは思わない。けれど、どうして?」
「何がだ」
「どうして、本気を出さなかった?氷川。……いや、アーリマン」
「本気、か。出したところで、既に遅い」
「遅い?」

そう。もう、遅い。たとえ力が勝っていたとしても。
君を思い出した私が、君を滅することなどできようもない。

思えば今まで、君を滅する機会など何度でもいくらでも。
その度に、なぜか、思いとどまったのは。
(どこかで、君を、覚えていたからか)





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