「どうして、“遊んだ”の?」
「しょせん、遊戯だ」
「何が?」
「何も、かもが?」
本当は。
遊ばれたのは私のほうだ。君はどこまで強く美しくなれば気が済むのか。
そう詰るのは憚られて、それ以上の言は落とさぬ私を見ながら。
少年のカタチをしたソレは怪訝そうに首を傾げる。
創世の悪魔。今生での人の名はカオル。選んだ名はシュラ。
ミロク経典に記されし大いなる魔物。
ただひたすらに修羅の道を堕ちていく哀しい生き物。
――― “初めて”君に出会ったのは、いつのことだっただろう。
君の事を本当の意味で思い出したのは、アーリマンを降ろした後。
虚無を司る呪われし神の身は一瞬で全てを把握し、理解し、そして憂いた。
また巡っていたのか。運命を。また巡りあえたのか。君に。けれど今生では。
……君は違う理を、選んだか。
おそらくは、新しいルートを開くために。
おそらくは、これ以上繰り返さないために。
感じたのは微かな落胆と、そして深い安堵。
では、もう私は。君を“失う”ことは無い。少なくとも今生では。
「戦う気が無かったとは思わない。けれど、どうして?」
「何がだ」
「どうして、本気を出さなかった?氷川。……いや、アーリマン」
「本気、か。出したところで、既に遅い」
「遅い?」
そう。もう、遅い。たとえ力が勝っていたとしても。
君を思い出した私が、君を滅することなどできようもない。
思えば今まで、君を滅する機会など何度でもいくらでも。
その度に、なぜか、思いとどまったのは。
(どこかで、君を、覚えていたからか)