和泉 カオル。
周りに流されている風で、本当は一人そっと離れてこちらを眺めているような、友人。
仕方ないなと困ったように、いつもオレや千晶の我侭に選択を委ねて。薄く笑って。
あの、優しい、作った仮面のような笑顔に苛立ち始めたのはいつだっただろう。
昔の手術の痕が、ちょっと失敗してひどく残ってるんだと。
体育の前後の着替えも、健康診断も、夏の水泳も。
学校でもどこでも、けして必要以上に曝さぬあいつの肌を、見てみたいと思ったのは。
(なあ、和泉。どうしてお前、そんなふうに一歩離れて歩くんだよ)
――― ほんの少しの探究心は、トクリと起きた物思いを、紛らわすためのオブラート。
オレは知ってる。
あいつはずっと、嘘つきだった。
本当は、頭も運動能力も、何もかももっと。
その気になれば、もっともっとすげえやつなのに。
あいつは諦めてた。何もかも。最初から。やる前から。全部。
好きなこと、楽しいことを見つけてしまえば、自分の負けだとでも言いたげに。
手を抜いて、目を背けて、保護色のように周りの奴らに自分の鮮やかさを埋没させて。
なんで、だ?
オレならもっと自分を見せる。
オレならもっと自分を自慢する。
ほらオレはこんなにかっこいいんだよ、すげーんだよ、って。
(おい、カオル。何一人で悟ったようなツラしてるんだよ。バカにしてるのかよ)
――― ほんの少しの嫉妬心は、ドクリと鳴った心音を紛らわすための隠蔽コウイ。
答えが分かった気がしたのは、夏の林間学校。
枕投げに疲れて寝入った明け方、トイレに行って、戻ってきたら。
オレの隣。壁の横に寝ていたあいつの、掛け布団がずれていて。
掛けなおしてやろうかと手を伸ばしたら、あいつが寝返りを打って、
軽く乱れたシャツとズボンの間から、肌が、見えて。あいつが、はぁ、と寝息を立てて。
(お前。意外に寝相悪いな。布団かけてやる手間賃にちょっとぐらい、いいよな)
――― ほんの少しの悪戯心は、ゾクリとたった鳥肌を誤魔化すためのカモフラージュ。
オレはあいつの乱れたシャツのすそを、そっとつまんで、引き上げた。