ムスブ 01





(一度、こっそり見たことがある)


和泉 カオル。
周りに流されている風で、本当は一人そっと離れてこちらを眺めているような、友人。
仕方ないなと困ったように、いつもオレや千晶の我侭に選択を委ねて。薄く笑って。
あの、優しい、作った仮面のような笑顔に苛立ち始めたのはいつだっただろう。

昔の手術の痕が、ちょっと失敗してひどく残ってるんだと。
体育の前後の着替えも、健康診断も、夏の水泳も。
学校でもどこでも、けして必要以上に曝さぬあいつの肌を、見てみたいと思ったのは。


(なあ、和泉。どうしてお前、そんなふうに一歩離れて歩くんだよ)

――― ほんの少しの探究心は、トクリと起きた物思いを、紛らわすためのオブラート。



オレは知ってる。
あいつはずっと、嘘つきだった。

本当は、頭も運動能力も、何もかももっと。
その気になれば、もっともっとすげえやつなのに。

あいつは諦めてた。何もかも。最初から。やる前から。全部。
好きなこと、楽しいことを見つけてしまえば、自分の負けだとでも言いたげに。
手を抜いて、目を背けて、保護色のように周りの奴らに自分の鮮やかさを埋没させて。


なんで、だ?
オレならもっと自分を見せる。
オレならもっと自分を自慢する。
ほらオレはこんなにかっこいいんだよ、すげーんだよ、って。


(おい、カオル。何一人で悟ったようなツラしてるんだよ。バカにしてるのかよ)

――― ほんの少しの嫉妬心は、ドクリと鳴った心音を紛らわすための隠蔽コウイ。


答えが分かった気がしたのは、夏の林間学校。
枕投げに疲れて寝入った明け方、トイレに行って、戻ってきたら。
オレの隣。壁の横に寝ていたあいつの、掛け布団がずれていて。
掛けなおしてやろうかと手を伸ばしたら、あいつが寝返りを打って、
軽く乱れたシャツとズボンの間から、肌が、見えて。あいつが、はぁ、と寝息を立てて。

(お前。意外に寝相悪いな。布団かけてやる手間賃にちょっとぐらい、いいよな)

――― ほんの少しの悪戯心は、ゾクリとたった鳥肌を誤魔化すためのカモフラージュ。



オレはあいつの乱れたシャツのすそを、そっとつまんで、引き上げた。




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