TEWA。
テーヴァ。
ノアが教えてくれた古い言葉。箱舟という意味の。
ことば、という意味もあるから、きっとお前の求めるアレも気に入るだろうと。
アレはことばを操り、ことばに操られる、哀れな生き物だからと。
そう告げて降りてきたオレの神。オレのノア。オレの箱舟。
なのに。
「なんで…なんでオマエはいつも……オレの」
オ レ ノ モ ノ ニ ナ ラ ナ イ ?
続く言葉は、ウソブいた。
分かる。
オレはお前に勝てない。
お前がオレとムスんでくれないなら。
お前がオレの中に触れず、俺をお前の中に触れさせてくれないなら。
「オレの、邪魔、ばかり」
――― もうオレはいらないな。
今に限った話じゃない。受胎の前だってオレは、何度も。
何度も、何度もウソブいて自分を変えた。でも、変えてもお前はオレを選ばない。
オレを見ない。
◇◆◇
「シュラ!……どうしてっ」
やっとご到着か。お前の綺麗なコトワリ。
なぜ、自分を置いていったのだと、そのお綺麗な人間はカオルを責める。
ああ、責めないでやってくれ。もうカオルは十分傷ついてる。
ワカッテル。“ごっこ”デモ“嘘”デモ“芝居”デモ、ナンデモ。ソレデモ。
お前がオレ達を大事に想ってたことぐらい、ワカッテル。ワカッテたから。オレ達も。
「どうして!貴方はいつも、僕を置いて!」
分かってやれよ。トモダチだったオレを壊すところをお前に見せたくなかったんだって。
ニンゲンだったオレを殺すことで、お前の手を汚したくなかったんだって。
分かってやれよ。
「そんなに、僕が、疎ましい、ですか」
傍に置きたくも無いほどに。戦闘にすら加えないほどに!
違うよ。そいつは大事なものほど傍に置かないんだ。
何があっても自分の中に入れないんだ。自分の中が傷だらけだから、絶対に。
納得できず、激昂して詰め寄るそいつの手を無表情にパシリとはらうカオル。
そうか。それほどに。触れたくないほどに。大事なんだな。そいつが。
――― は。
「ほら、やっぱり“友達ごっこ”じゃないか」
お前、そいつのこと“友達”だなんて、思っていない、くせに。
今度の言葉には、周りの悪魔どもは何も反応しなかった。
オレのその言葉を拾った黒い男が傷ついたように、払われた手を握り締めて黙り込んだから。
……結果としてカオルをかばうことができたから。その“嘘”を手伝って。
ああ。カオル。
お前の勝ちだ。
お前の中にある、ムスビの勝ちだ。
お前のTEWAは強い。お前の繭は固い。お前の言葉は想いは何もかもを閉じる。
何もかもを拒絶して自分だけを包んで、トジル。
「次は、千晶か?」
そんな傷ついた瞳を見せるなよ。覚悟を決めさせてやっただけだ。
どうせ、千晶もオレと同じだろうよ。
オレは人の頃のお前の、千晶は悪魔になったお前の。
お前が欲しがるはずの、お前が楽に生きられるはずのコトワリを、選んで。
そうやって。
お前とオレ達との、“縁”を、“結”んで、おきたかった。
もう何もかも今更だけど。