はぁ、はぁはぁ。
視界を遮る液体が、汗か血か既に分からぬ状態にある男は、刀を支えに体を起こす。
『いったい何体召喚したのだ、ヤツラは!』
酷く焦ったお目付け役の声がその耳に届いているのか、既に怪しい。
彼はダークサマナーの罠にはまったのだ。
帝都を守護する悪魔召喚師―― 十四代目葛葉ライドウ。
若くしてその任に就いた彼は、周囲がその待遇を納得する、どころでなく、その才に驚愕するほどの逸材で
あった。ゆえに彼が、彼によってその悪事を阻まれた者共の逆恨みの対象となるのに、
さほどの時間は要しなかった。
「晴海町にて異形の者と邂逅する事件多し。至急調査されたし」
デビルサマナーである彼にとっては、特に問題も無い文言からなる依頼文。
その依頼主は裏で複数のダークサマナーを雇い入れ、葛葉ライドウの抹殺を目論んだ。
ダークサマナー達にとっても、眼の上のこぶであるデビルサマナー。それを、金をもらって殺せるのであるから、一石二鳥、渡りに船とばかりに報酬以上にやる気を見せた。
そして、ライドウが異界晴海町を訪い、天主教会が見える三叉路に立ったとき、人の恨みと欲を
体現したかのような異形の者共は何百もの群れを成して、彼に襲い掛かった。
―― 斬っても斬っても、きりが無い。
戦い始めて既に半刻。弾丸も尽き、仲魔はほぼ倒れ、残るは自らの右手に持つ刃のみ。
―― それも、この敵の数では時間の問題か。
跳びかかってくる悪魔に切りつけながら、ライドウは頭のどこかで冷静に未来を予測した。
―― ここで、斃れるか。
珍しく自嘲の思いが浮かぶ。
―― それも、良いか。
『ライドウ、ここは退け!ライドウ!聞こえているか!ライドウ!!』
ゴウトの声にも、もはやライドウは返事を返さなかった。