大国湯 1




「うーわーっ!ホントにホントの銭湯!!レトロ!!!かっこいいっ!!!」

カコーン!ザーッ!!バシャッ!という音に混じって、聞こえてきた声に常連の若衆の眉が寄る。
む、またどこの世間知らずのバカ野郎が!と振り向くと、そこには。

かつて見たことが無いほどに困りきった顔をした(くだん)の学帽くんと、その連れらしき少年?が立っていた。ちなみにいずれも……きちんと手ぬぐいを腰に巻いている。

「シュ、シュラ。皆さんにご迷惑だから、あまり騒がないで」

隣から囁くライドウに、ごめんごめんと頭をかくシュラだが、懲りずに、
やっぱり銭湯には富士山が似合うよな〜うんうん!!だの、
ライドウ、お前いーかげんに帽子脱げよ!!お風呂に失礼だぞ!!
蒸れると禿げるぞ!!!シジマになるぞ〜!!!だのと、大はしゃぎだ。



……おい。あのライドウが、手ぬぐいを腰に巻いとるぞ。(←突っ込みどころはそこか!)
……あのライドウが何だか困った顔をしておるぞ。
……あのライドウが、あの初めて見るボンに振り回されとるぞ。
つうか、あの二人。男湯に入ってきちゃ、いけんのじゃねぇか?
お前、何を言うとるんじゃ。男が男湯に入るのが、何がいけんのじゃ?
いや、何というか、その。……分からんか?どうも変な気になるんじゃが。
お、おう。それは、その……何となく分かる。
じゃろ。ライドウはちぃっとは見慣れたからまだましとしてもじゃ。
あの連れのボンなぁ。細っこうて、可愛うて、ライドウとはまた違った美人さんじゃ。
二人揃うと、女顔負けの色気じゃなぁ。目の保養っつーか。……う。いけんいけん。
俺もいけんいけん。



とまあ、そんな桃色邪悪オーラをほよんほよんと漂わす若衆達に、インネンオーラを飛ばしつつ、
ライドウはシュラを奥へ促したが、そこへ。

「おう。ライドウ!連れが一緒たぁ、珍しいなぁ」
どうやら面白そうなものが見られそうだと判断した佐竹の兄ぃが、ニヤニヤと二人を呼びつけた。

「さ、佐竹さん」
非常に珍しく焦った顔をするライドウにニヤリとし、佐竹はシュラに声をかける。
「初めて見る顔じゃなぁ。ボン、名前は」
「シュラ、と言います。事情がありまして、鳴海探偵社に居候させてもらっています」
煩くしてすみませんでした。と、佐竹の気迫に全く動じることも無く、ペコリと頭を下げる少年に、
佐竹は、気に入った!!と返し、ライドウの苦悩を更に深くした。

その後、若衆ともあっさり意気投合し、背中の流し合いだの、湯に浸かっての語り合いだの、と銭湯の楽しさを思いっきり満喫しているシュラを、はらはらと見守るライドウに、抑えたような笑い声で佐竹が話しかけた。

「ライドウ。お前、よっぽどか、あのボンが好きなんじゃなぁ?」
「ええ、佐竹さん。……って、いきなり何を聞いてるんですか!?」
「照れるな照れるな。見てりゃ分かる」
「…………分かりますか」
「普段のお前を知っとるヤツなら皆分かる」
分からねぇのは、当の本人ぐらいだろうよ、と返され、ライドウはむぅと唸る。

「しかし、お前もベッピンだが、あのボンも負けとらんなぁ。いんや、ソソルのはあっちが上かぁ?
あんなベッピンを銭湯に連れてきちゃいかんなぁ。ライドウ」
「……っ、僕も必死で止めたんです……っ!」

でも彼が絶対に行きたい、お前が行きたくないなら俺一人で行ってくるから、って。
俺、お前より強いから平気だよって。確かに彼は僕より強いですが、問題はそこじゃないって、
何度言っても何度言っても分かってくれないんですよ!あの鈍感悪魔は!!

事ここに至るまでの経緯と苦悩を思い出し、思わず拳を握り締めるライドウのところに、さっきまで
シュラと湯に浸かっていた若衆がふらふらと寄ってきた。
ちなみにいずれも……しっかりと(笑)手ぬぐいを腰に巻いている。

「何じゃ?どうした」
「あ、兄ぃ、面目ない」
「すまん。ライドウ。もう、限界じゃぁ」

一体、何の……と、振り返ると、そこには一糸纏わぬ姿でしどけなく横たわり、う、ん、と微かに声を上げるシュラの姿。……肌は桃色に染まり、目は閉じられ、唇は甘く開き。

「ちょっと湯当たりしたみたいで、湯から引き上げたまではいいんじゃが」
「……すまん。わしらにはこれ以上は毒じゃ……」

その言葉を聴いている暇もあらばこそ。
ものすごい勢いでシュラを抱き上げたライドウは、そのまま脱衣場の方へ猛突進で去っていった。


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禿げるとシジマになります。