大国湯 2




パタパタ。
「だから、ごめんって、ライドウ」

パタパタパタ。
「まさか、俺もそんな簡単にのぼせるなんて思ってなくて」

パタパタパタパタ。
「……ライドウ?……怒ってるの?」

パタパタパ……。
「……怒って、ない、です、から、そんな顔で見上げないでください」

未だ熱を持つ薔薇色の頬&潤んだ瞳&赤い唇の三体召喚でライドウを見上げていたシュラは、
そんな顔ってどんな顔?と思いつつ、どうやら本当にライドウが怒っていないことに安堵する。
そしておとなしくライドウにパタパタと扇いでもらいながら、これはこれで極楽〜と目を閉じた。


……あの後、鬼の自制心でシュラの衣服を整え、水分を無理やり含ませたライドウは、脱衣場の隅にある休憩場でパタパタとシュラの介抱をしていた。

何だかんだと寿命が数年は縮み、あれやこれやと腸が煮えくり返ったように思えなくも無いが、
シュラに膝枕をできることなど滅多にあるわけもなく、ライドウもライドウで、まあ、これはこれで
極楽、とパタパタしていたのだが。

……あ、そういえば。
ふと、気になることを思い出し、シュラに問いかける。

「シュラ」
「……うん? なぁに? ライドウ」

「///。目は開けなくていいです。まだ辛いでしょう」
「ああ、うん。ありがと。で、何?」

「貴方、どこかで腕を怪我しましたか?」
「え?」

「倒れたときに、腕を打ったりしませんでした?」
「い、いや。痛くないから多分」

「そうですか、ならいいのですが」
「どう、して?」

「いえ、貴方の左腕の付け根に、うっすらとですが、赤い線のような痕が」

その言葉を聞いて、ピクリ、とシュラが動く。
まだ動かないほうが、とライドウが静止するのを聞かず、シュラは動く。

ライドウの膝から起き上がり、横座りになり。
そのまま右の手で左の袖を抜き、左腕を露にして。
まだうっすらと残る左腕の赤い線を凝視して。

……そして、目を伏せてゆっくりとそれを舐めあげた。

あまりに自然で。
あまりに流麗で。
それでいて、あまりに淫蕩なその仕草から目を逸らせないまま、ライドウはコクリと喉を鳴らす。

「シュ……ラ?」
かすれた声でシュラを呼ぶ。
「まだ、残ってたんだ」
悲しそうな声でシュラが答える。

「何が」
「俺の」
罪の証だよ。ライドウ。

そう言ったシュラの笑顔はこれまで見た中で一番儚げなもので。
瞬殺されたライドウは、今ここに自分以外の誰も居ないことを心から感謝した。



◇◆◇



(……どうだ?)
(いや、また、膝枕でパタパタ始めよったぞ)
(そうかぁ。いきなり起き上がって脱ぎだすから、よっしゃぁぁ!と思ったのにのぉ)
(ええい、ライドウも見た目によらず、押しの弱い!ああいうほっそりしためんこい女子、じゃなかった、男はなぁ、押して押して押しまくればうっかり落ちてくれるもんじゃ)

「お前ら、何をしとる」
「う、うわぁ」
「あ、兄ぃ」
「い、いや、どうなったかなと心配でぇ」
焦ってジタバタする舎弟に佐竹が溜息をつきながら、睨む。

「……いいから。しばらく放っとけ」
「へ、へぇ」
「それから、後で鳴海んとこに、甘いもんでも持っていっちゃれ」
「へ、へぇ。でもまた何で」
「ええもん見せてもろたやろ?」
「……へぇ」
「た、たしかに……」

(……ああいうキレイな想いが通うのを見るのも、久しぶりじゃあなぁ。大人になると忘れちまうキレイなキレイな気持ちじゃ。ホンマに今日はええもん見せてもろうたわ)


その後。
結局、シュラの笑顔に見惚れたまま、傷については何も聞けなかったライドウと、
体調不良だとは言え、ライドウに迷惑をかけたと若干落ち込んでいるシュラが、
会話もあまり無いままカラコロカラコロと仲良く下駄を鳴らしながら探偵社へと戻ると。

普段めったにお目にかかれないような極上の甘味が届いており、これはまた極楽極楽と、
鳴海とゴウトと、たまたま来ていたタエさんと、舌鼓を打つこととなったのだが。

「でもさぁ。なんで、佐竹さんからこんなの届いたの〜」
と、のんびりと問う鳴海の質問には誰も答えられなかった。


Ende




おまけ

そして、この後、事の顛末を聞きかじった鳴海が
「いやー、でも、シュラちゃんが銭湯で女性化しなくて不幸中の幸いだったねぇ」
と爆弾発言を投げ落とし、瞬間発火したライドウによる甚大なる被害が発生することになるが。

……その未来を今は誰も知る由も無い。




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押して押して押しまくればうっかり堕ちてくれるだろうか。