アカラナ回廊 入口付近
「『……美味だ』」
異口同音な賞賛を聞きながら、……少し前にもまったく同じ光景を見たなあ、と。
当たり前といえば当たり前な既視感を覚えるシュラは、大学芋をほおばる「もう一人」の黒衣の
悪魔召喚師と黒猫をにこやかに見る。
……ああ、そういえば。もう一人。
「少し残して、そっちのナルミさんにも持っていってあげてくださいね」
と声をかけると。
「『ヤツにはもったいない』」と
これまた異口同音で返ってきて、シュラはくすり、と笑う。
「……こっちの鳴海さんよりも、ちょっと困ったさんなんですか?」
家賃滞納して追い出されたって聞きましたけど。でも。
「いい人ですよ、ね。ナルミさん」
本当は、雷堂さんも業斗さんも、ナルミさんのこと 憎めないんでしょ?
「……なぜ、そう思う?」
どこか悔しげに、困ったような声で返す雷堂がこれまたおかしくて、笑いながら返す。
「だって、こっちのライドウ達もそうですから」
以前は、もっとちゃらんぽらんで酷い人だったって、聞いた。そう、だったのかもしれない。
……心に瑕があったり、自分で自分が許せなかったり、大切なものを見失ったりしたら、誰でも
そうなるから。でも、今、鳴海さんがあんなにいい人なのは。
「雷堂さんや、業斗さんが居るから、変わってきたんですよね」
大事な人が居れば、人って変わりますから。
……そういうのって、嬉しいですよね、と透明な視線で返されて。
「『……』」
シュラ特有の精神攻撃に慣れていない悪魔召喚師と黒猫はドキリとして沈黙する。
この悪魔は、本当に……。
最強最悪の悪魔という意味が段々と分かってきた気がするぞ……。
◇◆◇
「じゃあ、俺、奥のほうでフェンリル達と遊んでますから」
すいません。修行の邪魔をして、と謝るシュラに、雷堂と業斗は慌てて、否、と返す。
「いや、こちらこそ気を遣ってもらってすまぬ。……馳走になった」
『お前が居ると、悪魔が戦ってくれぬのは仕方なかろう』
……”その理由”は分かりすぎるほどに分かっているのだが。
シュラが傍に居る間は、アカラナ回廊の悪魔連中が戦いを放棄するのだ。
(さっき、甘いもの好きなタラスクに、シュラが大学芋を一つ口に入れてやったときなどには)
((まさに「至福のひととき」、だったな))
他にも、次に作るときには芋を切るのを手伝うと言い出すマハカーラやら、では、揚げるときは
ぜひ私の炎で、すわっ!と足踏みをするマダやら、あいつもこいつもそいつもどいつも、戦う気が
失せるほどになんて和やかでおバカな連中なんだ!と悪魔召喚師と黒猫は痛む頭を押さえる。
が。
「……これも、修行の内だな」
『うむ。ポジティヴ・シンキングというやつか。成長したな、十四代目』
そして、尻尾を振るフェンリルと共に去っていくシュラを見送った後。
雷堂は、本来の雰囲気を取り戻しつつある周囲へと、その刀のように鋭い集中を、向けた。