『雷堂、今日はそのぐらいにしておけ』
「うむ。そろそろ戻る時刻か」
お目付け役の声に、パチリと刀を納めた悪魔召喚師は、ひとつ肯く。
「だが、まだマグネタイトは潤沢にあるが」
先ほどの戦闘で弱点攻撃がうまく決まった故に。
『……仮眠すれば回復できるからな。非効率と思うのは分かるが』
だが、過ぎたるは及ばざるが如しだと、言いかけた業斗の声は違う音を出す。
『……む?何だ?』
何やら、ざわ、とアカラナ回廊全体がどよめいた気がする。
「……何だ?何を騒いでいる?」
今までにこのような事例は無かったがと怪訝に思う雷堂たちのところに巨大な狼が駆けてくる。
「……悪魔召喚師!」
「……シュラ殿のフェンリルか?どうした」
「スマヌ。助力ヲ 請ウ」
『何だ、どうした』
「主様ガ倒レタ」
「『!』」
先ほどのざわめきは、これか、と思いながら雷堂と業斗はフェンリルと共に走る。
『あそこか!』
「シュラ、殿!」
アカラナ回廊の青白い床に同化するように倒れるシュラは、既に意識が無い。
「回復魔法はかけたのか?!」
「無論ダ。ダガ効カヌ。あいてむモ効カヌノダ」
呼びかけても揺さぶっても何の反応も示さぬ肢体は、屍かと錯覚させるほどに冷たく。
ゾクリと背筋が凍るのを感じながら、雷堂は叫ぶ。
「業斗!ライドウ達を呼んで来い!護衛に一体、仲魔をつける!!」
「イヤ、我ガ付イテイッテヤロウ。無駄ナ、マグネタイトヲ使ウナ」
「……フェンリル?」
「……主サマノ御不調ハ、コチラノ悪魔ナラ誰モガ知ルトコロ」
「……」
「コノ付近一帯ノ悪魔ヲ移動サセテオク。……主様ヲ助ケテクレ。悪魔召喚師」
――― タノム、と。
来るべき時には、その父親と共に天に牙むくはずの この孤高の偉大なる狼に膝を折られて。
その不可解さは雷堂に声をあげさせる。
「……っ。手短に事情を話せ!」
これだけの高位悪魔が揃っているこのアカラナ回廊で。
如何に優れていようとも、ただの人間に、敢えて、それを頼む、その理由を。