脅迫 7




「シュラ!」
ひどく焦った様子で駆けてくる、その男の顔は蒼白だ。

「雷堂。いったい、何が」
「……体調が悪いようだ。倒れて……女性化した」

雷堂の腕に抱かれて狸寝入りをしていたシュラは、やっと会えたライドウの声と気に安心して。
いろいろ問題ありまくりな経緯を、「点3つ」で思いっきり省いてくれた雷堂の説明に安心して。
そのまま本当の睡魔の手に落ちる。

他の男の腕の中で眠るシュラを見て、ライドウは微かに眉を寄せ。
それを見て、雷堂は軽く苦笑してシュラを渡す。

(今の我には、お前もコイツもどちらも大事なのだ。
お前もそれが分かっているから、我のマグネタイトを喰ったのだろう)

雷堂の外套をどうするか、逡巡しているライドウに、そのままでいい。と。
また、近いうちに返せ、できれば洗濯をして、と言う。

(それでも、お前の残り香を持つ外套を、平気で纏っていられるほどに朴念仁ではないのだ。
……頼むから、早く、普通にマグネタイトを得られるように、なれ、よ)



◇◆◇



「その代わり?」
「週に一度はここに来い。その時に足りなければ補給してやる。修行のついでだ」

「……いいの?」
「何が」

「えっと、多分、私 燃費悪いし」
「燃費?」

「ああ、ええっと。たくさん食べるよって」
「我になら歯止めが利くのだろうが。問題ない。(止まらなくなっても、問題ないがな)」

「ええっと。私、本来は、男性体だし。……今更ですが」
「? それが、どうかしたのか?」

「……」
(私が言うのも何だけど。葛葉の人達って、その辺の感覚、思いっきり、ぶっとんでるよね)

「まあ、ただ。できれば、普通に手から補給できるようになれ」
いろいろと、複雑だ。

――― ああ、この人は。何て不器用で、何て優しい。

「いいな。特別な事情も無く来なかったら、アイツにばらすぞ、全部」

くす。
「……それって、脅迫?」
泣きそうな笑顔で悪魔は問う。

フ。
「……ああ、脅迫だ」
困ったような笑顔で男は返す。

だから、言うことを聞け。
……ありがと。雷堂さん。えっと。
何だ?
お礼は、大学芋でいい?
…………ああ。(本当に、この悪魔は……)



◇◆◇



『では、情報も整理できたことだし、行くか、雷堂。遅くなった』

迷惑をかけた、感謝すると言い残してライドウ達が立ち去った後。
やはりフェンリルに口止めをされていた業斗が、そう雷堂に声をかける。

「ああ、業斗。ナルミに大学芋を渡してやらないとな」
『む。最後に一つだけ所望したい。ヤツは残り全部を独り占めにするぞ』
「分かった。そうだな。我も、一つもらおう」

そう言って口に入れたそれは、今までのモノよりも少し苦味が強く感じられて。

その苦味に不可解な軽い眩暈をくらりと感じた雷堂は。

――― あげすぎた(・・・・・)か。 と、くすりと笑った。




Ende



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あげ(・・)すぎたのは、何?