裁きの天使 1



筑土町 銀楼閣
鳴海探偵社


「では、そういうことでお願いするよ」
「……分かりました。……本当に、いいの?シュラちゃん」
「はい。俺からも、お願いします」

キィと探偵社の扉を開いた、学校帰りのライドウの耳に入った会話。
一人目の声に危機感を覚え、急いで入ったそこには、思ったとおり件の金髪青年と、どこか硬い
表情をしたシュラ。そして、ものすごく複雑な困った顔をした鳴海。

ライドウを見て、しまったという目をする鳴海を視界に入れながら、
「何をしに、来られたのですか?」とその青い瞳の青年に悪魔召喚師は問う。
知らず口調と声音が冷たくなるのは、もはや条件反射に近い。
「ご挨拶だね」
と苦笑する青い目は、そのライドウの冷気すら涼しげに楽しんでいるようだった。




「シュラに依頼?あの男が、ですか?」
「そうなんだよ〜」

いや、断ろうと思ったんだよ。思ったんだけどね〜。
その何とも言えない語尾の伸びからは、非常に高額な報酬であることが伺える。

「……所長?」
また金に目が眩みましたね!とライドウが叱りつけようとすると同時に。
「俺が、やらせてほしい、って言ったんだよ、ライドウ」
暗に、それ以上鳴海を責めるなとシュラが口を挟む。

「居候なんだから、それぐらい役に立たないと、ね。鳴海さん」
その言葉に、助かったと言わんばかりの鳴海の溜息が聞こえ、ライドウもまた軽く溜息をついた。


「……で、どういった依頼内容なのですか」
交代する、もしくは手伝う気満々でライドウが尋ねると、
「ええっと、『神の炎が来るから、出迎えてやってくれると嬉しいね』、だっけ?」
「……はい」
確認をする鳴海に、やはり硬い表情でシュラが答える。

「神の炎?何のことですか?」
「いや、僕も分からないんだけど……シュラちゃん、分かる?」
「……はい」

言葉少なく、うつむいたまま答える、そのシュラらしく無い様子に、鳴海が心配そうに首を傾げ、
ライドウの眉根が寄る。

「どこに来るのですか。シュラ」
「多分、ここの屋上、だと思う」
ワカが、座標軸がそこに合わされているって言ってたから。

「いつ」
「今晩」
「今晩?!」
再び、刺々しさを増したライドウの声音に鳴海がびくりとする。

「もう、夕方ですよ。準備などは大丈夫なのですか?」
「……うん。俺が居れば、それで済む話だと、思う」
けど、念の為に仲魔を召喚しておくから、ちょっと席、はずすな。

パタン、とドアが閉まった後。

一気に「さて、何があったかキリキリと吐いてもらいましょうか」モードに変換したライドウの
前で、鳴海はダラダラと滝のような冷や汗を流した。



next→

帝都top