僕の中の鵺が、啼く
カエセ
と
ホシイ
と
「!」
夢に起こされた男は、確かめる。
見慣れた天井の模様を。
そして。
傍らを。
未だ「それ」が「そこ」にあるかどうかを。
す、ぅ、と寝息を立てるそれを見て、無意識に片手が伸び、もう片方がその手首を捕まえる。
元を一つとする両者の力は、捕まえるそれが、やや勝る。
は、と安堵の息を吐き、男は静かに立ち上がると、音を立てぬように着替え始めた。
安らかに眠るそれを起こさぬように。
『ライドウ』
「……少し出る」
闇から聞こえた声に、低く一言だけ返す。
『雨だぞ』
「好都合だ」
音の出ぬ唇が、好都合だ、と動いて。
男は部屋を出ていった。
パツ、と学帽に雫が跳ねる。
そぼ降る雨の中を、男は傘も持たずに歩みを進めた。
何かから、逃げるように。
ポツリ、ポツリと落つる雨は、しとり、しとりと男を濡らしていく。
カツン、カツンと鳴る靴音は、とくり、とくりと心を揺らしていく。
やがて、暗い空を振り仰ぎ、忌々しげに男はギリ、と歯を噛み締める。
この程度では。
この程度の、雨、では。
おさまらぬ。
この飢えは。
――― この”熱”は。