夜 第拾九夜 「儚」



「……シュラ?」

訪れた静寂が、なぜか少し不安で。悪魔召喚師は最愛の悪魔の名をそっと呼んでみる。

す、ぅ。
(もう、寝ました、か)

健やかに、というよりは、疲れ果てて死んだように眠るその痛々しさに、召喚師の心が痛む。
悪魔の態でも消えぬ、首の、指の痕は、己のおぞましい執着の証のようで。

……これほどに、自分自身ですら、嫌悪するほど、僕は汚いのに。

――― ホントに綺麗だ。お前。

あんなに、酷いことをしたのに。くれる言葉が、ソレだなんて。
……キレイなのは、貴方です。優しくて、残酷な、悪魔の王。


――― 後、少しで満月だな。お前。

自分でも、分かる。自分の内が、変わったのが。……何だかとても暖かくて安心する。
まだ、少しだけ、欠けている、けれど。

でも、きっと、この欠落は埋まらない、はず。
貴方は僕が一番欲しい言葉だけは、きっと、くれないから。

だから、もし叶うことなら。
本当に、叶うこと、なら、だけれど。このまま、欠落が、埋まらなければ。

いや、この胸の隙間は、もう永遠に空いたままでいい。だから。


そして。小さな、小さな声で、男は自らの唯一神に、その願いを唱える。

「……シュラ」

眠る貴方の心に、届けばいいのに。

「お願いです、シュラ」

――― もう、貴方から離れて生きるなんて、僕には、きっと、できない、から。

「どうか」

他の人を、想ったままの貴方で、いいから。

「……連れて行って、ください」

地獄の、底まで。

「お願い、です」


眠る悪魔の唇に、触れずにひそりと落とした悪魔召喚師の願いは。

やがて差し込んだ、暁の薔薇色の光に、儚く溶けた。






Ende

第拾八夜

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