凪 1



「あれ、お客さん?」
凪が探偵社のドアをノックすると、見たことの無い少年が扉を開けた。

「は、はい。ライドウ先輩は居られますか」
焦った凪が慌てて用件を言うと、
「ああ。もしかして、貴女が凪さん?あいつ、ちょっと買い物に出たんですよ。もう帰ってくると思いますから、中でお茶でもどうぞ」
そう言って、ふわりと笑う少年の笑顔はとても柔らかで、知らず凪の頬を桜色に染めさせた。


「はい。どうぞ。紅茶の方がお好みに合うかなと思って」
と、少年が煎れたそれをコクリと飲んだ凪がおいしい、と言うと、
ありがとう、ジャムを入れてロシアン・ティーにしたんだ、とまた少年が笑う。

「に、しても遅いな。ライドウ。お茶菓子を買いに行かせただけなのに」
と首を傾げる少年の名も知らないことに、今更ながらに凪は気づく。

「え、ええと。すみません。あなたは?」
「あ、名も名乗らずにごめんなさい。俺はシュラ、と言います」
「シュラ……さん?」
「シュラでいいですよ。ちょっと事情があって、今こちらに居候させてもらってるんです」

不思議な人、と凪は思う。
多分、ライドウから自分のことも聞いているプロセス。
悪魔召喚師なんて、一般のピープルは気持ち悪いと思うがセオリーなのに。
こんなに柔らかく、笑ってくれることなんて、今まで滅多に無かった。

「シュラさん、は私のこと、ライドウ先輩から」
「聞いているセオリー?ですよ」
くすと笑って、シュラは言う。
「とっても可愛い後輩が来るって、浮かれてたから」
「え?」
「あのライドウが可愛いって言うんだから、すっごく可愛いんだろうなって思ってて」
「ええ?」
「そしたら、ホントに可愛くて、びっくりしました」
今度は確実に耳まで赤くなっていることを自覚しながら、凪はコクリと紅茶を飲み干した。

「ねえ、ねえ凪〜。何だか、いい雰囲気じゃーん。この子こそ男の子なのに、すっごく可愛い!
お目々もほら、きれいな銀色!」
(こ、こら。出てきちゃ駄目のセオリー!)
「へーいきだよ〜。どうせ見えないって!」

例によって例のごとく、凪にくっついてきていた親友のハイピクシーは勝手に動き出す。

「あ、銀色じゃなくって、灰色なんだ。光の加減で変わるんだ〜。凪と同じで外国の人の血が入ってるのかなぁ。」
(ちょ、ちょっと!)

見えないのをいいことに、今日初めて会った少年をまじまじと観察するハイピクシーに凪が焦る。

「ライドウとはまた違った感じの美少年だぁ。きれいな肌〜。ちょっとぐらい触っても、いーかなー」
ますます調子に乗るハイピクシーに凪が強制送還しようとしたその瞬間。

「ちょっと!アンタ!!私のシュラに何勝手に触ろうとしてるのよっ!!!」
誰か(・・)が叫んだ。


――― 一方、筑土町 商店街

『ライドウ、少し急いだほうがいいのではないか』
「そうだな。思いのほか、遅くなった。もう凪が着いているかもしれない」
『そもそもが、買いすぎなのでは』
「いや、シュラにも頼まれたことだし。しっかり買わなければ」
と力説するライドウは両手いっぱいのお茶菓子?らしき袋を抱えている。

『まあ、凪とシュラだけなら、何事も起きないだろうが』
「……そういえば!……急ごう!!」
と、某トラブルメーカーを思い出したライドウが走りかけるのと、銀楼閣の方面から爆破音が聞こえたのは同時だった。

『……あ』
「……走るぞ!」
予想通りの状況に頭を抱えながら、一人と一匹は爆破元へと歩みを進めた。


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帝都top




この二人は絶対に会わせたかったのです。