ゲンザイ 05



キィと、板張りの床が鳴く。
ち、鴬張りか、と、動きを止めて、周囲を伺う、が、敵が気付いた気配は無い。

(焦るな、ライドウ)
(……分かっている、だが)

火急の、とのことでヤタガラスから連絡が入った、依頼。
攫われた子供を救出して欲しい、という、それには追記があった。




――― 救出した時点で、既に“手遅れ”なようなら、その場で。

「なっ……!」
『その場で殺せ、だと。その、年端も行かぬ子供をか!』
「異能者、とのことです。既に精神が崩壊しているようなら依頼主にとって大きな災いとなります」

――― ひいては、我々に、とっても。




……自分が組織のコマであることは理解している。
たとえ、どんなに汚く見え、納得のいかぬ、依頼であっても。
それが何らかの形で帝都守護に繋がっている、ということも。……けれど。

( “手遅れ”に、など、させるものか)
(ライドウ。見張りが居る……気をつけろ)

廊下に配置されていた見張りに、そっと忍び寄り、昏倒させて、更に奥へ進むと。
どんよりとした湿った空気が足元から、彼等を誘う。

どこか、すえたような匂いと、微かな悲鳴を運ぶ、地下へ下る黒い階段。

「この下、だな」
『気をつけろ、ライドウ。その攫われた子供ほどでは無いにせよ、恐らく彼等は皆』
「異能者か」

地下へと降り、暫く歩むと。
前方から、コツリコツリ、と複数の足音が聞こえ。

物陰に隠れて、様子を伺うライドウとゴウトの耳に、おぞましい会話が届く。

「ご執心だなぁ、アイツ」
「ああ。あの子供。もう、いい加減死んじまうぞ」
「だから、だろ。死ぬ前にヤレルことはヤッテおこうって、ことで」
「惜しいよなぁ、せっかく、いい感じにナレテきたのによ」
「カワイガリすぎたんだよ。可哀想に。キレイすぎる子供も、考え物だな」
「お前がそれを言うかぁ?お前の後が一番、出血が多いって、苦情出てたぞ」

(……待て!殺すな!!ライドウ!!!)
凄まじい殺気を放って、討ちかかろうとする後継に黒猫は慌てて、声を掛ける。

だが、物陰から飛び出した彼等が見た、ものは。

「……!」
『な、いったい、何だ!これは!!』

床にのたうちながら、自らの首を絞め続ける複数の男たち。
苦しみながら、けれど、恍惚とした笑い声を上げて、それらは自らを死へと誘っていく。

暫しの後、最後の一人の体の震えが止まったことを確認して。
黒衣の男と、黒猫は黙したまま、闇の奥へと進んだ。






next→

←back

帝都top




※鴬張り=侵入者対策として、上を歩くと音が鳴るように張られた床、またその板の張り方。

本文を分割した理由は二つです。「長いから」「次が更に怖いから」。

心臓弱い方は、どうか、お気をつけて。


>