牢獄、と言っていいのだろうか。
太い、木の格子のついた部屋が延々と並ぶ、長い、暗い、板張りの廊下。
その所々に、ゆらりゆらりと揺らぎながら、奥へと侵入者を誘う、和蝋燭の淡い光。
キシ、キシリ、と自分達が鳴らす、床の音に加えて、
その最奥の座敷牢と思われる場所、から、どこかで聞いた声が、響く。
「気持ちいいの、かい。僕も、だよ」
「……っ」
「昨日は君の父親が来てたね。君をココに売っただけで飽き足らず、君を抱きに来た」
「……んっ。ん、……んっ!!」
「可哀想に。一体、君はどんな業を背負って、生まれてきたのだろうね」
「……や、……ぃゃ」
「死にたい?……死にたいの、だろう、ね。でも、ごめんね。殺してあげられない」
「……ぁっ、あぁっ!」
格子の向こうには、絡み合う人の体。
傷だらけの、子供と、その上に、のしかかり、その心と体を一心に壊す、男。
赤く。
ライドウの、思考が、視界が、怒りで、赤く、染まる。
許さない、……許せるものか、あんな、あんな幼い子供を。
――― あんなに儚い貴方を、……こんな、こんな地獄に落とした人間どもなど!
格子を壊すために跳び出そうとした男の身体は、しかし、見えない誰かの腕に引き止められる。
優しく、身体に絡みつくその左腕と、目を覆い隠すその右手の力は、けして強くは無いのに。
動くことが、できない。
束縛された男の耳に囁くのは、望んでもいない、自らの“守護者”の声。
おやおや、こんなところにまで、来てしまうとは、いけない子だね。
せっかく、彼が、君のことを思って、これだけは隠蔽したのに。
――― 隠蔽?
ボウに看破されるリスクを承知してまで、嘘を吐きとおしたのに。その苦労も水の泡だ。
……まあ、ここでの記憶は鮮明には残らないのが、せめてもの救いだね。
――― 嘘?……何の?
聞いた、だろう?あの子の父親は、あの子を売ったのだよ。
そして、それだけでは飽き足らず、自ら、彼を壊しに来た。
――― ……っ、何故、そんな。
さあ。奴らの脅しに屈したか。最愛の妻を失った責を、全て幼い彼に押し付けたのか。
魅力的すぎる我が子への歪んだ愛情をとどめておけなくなったか、それとも、その全てか。
……いずれにせよ、「人」ほど、悪魔的な生き物は居ないと、つくづく思うねぇ。
(……な?心の中に猫一匹しか居なくても、仕方ない過去、だろ?)
誰かの、言葉。聞いたことが無い、はずの、けれど、知っている台詞。
その愛しい声と、優しげに囁かれる魔王の声の合間にも、漏れ聞こえる、押し殺した悲鳴。
――― 早くしなければ、“手遅れ”に。
……っ!放、せっ!
これ以上は見ない方が君のためだよ。
放せ!彼は、僕が助ける。
君が?彼を?……助けられると、思っているの?
助ける!……絶対に……絶対にだ!!
……じゃあ、やって、ごらん。あの魂を、今更、救える、ものなら。