ゲンザイ 07



救う、か。

……もう、一つだけしか、 その方法は、残されて、いないのだけれどね。

でも、今の君には、その方法は、けして、選べない。

だから、今の君に、彼を救うことなど、けして。

けして、できやしないのだよ。愚かな可愛い、幼い悪魔召喚師。




魔王の束縛から逃れた男は。

やめろ!と。格子に自由になった掌を叩きつける。
それ以上、彼を傷つけるな、と。

ダン、と鳴る音に気付いたのか、ゆっくりと、傷だらけの子供の顔がこちらを向く。


――― ああ、やはり。
幼くとも、分かる。……貴方(・・)だ。


「……ュラ!」
子供の瞳が、叫ぶ男の姿を捕らえて、かすかに、微笑んで、稚い唇が動く。

(……助けに来て、くれたの)、と。


「そうです!今、助けますから、待っててくだ」

(ありがと。……でも)



――― もう “手遅れ”だよ。ライドウ。


その瞳の色は、いつか、どこかで見た、絶望。
何も映さない、何の感情も見せないそれは、黒衣の男の全身を覚えの無い罪悪感で拘束する。

やがて、ゆっくりと、子供の瞼が閉じる。一筋の、涙を生んで。
それでも、唇は願いを囁き続ける。いつか、どこかで聞いた願いを。

(だから、俺を助けてくれると言うのなら、どうか)


「俺を、殺して」
お願い、死なせて。
「……っ、できません!」


「殺して、ライドウ」
俺を、解き放って。この、残酷なゲンザイから。
「でき、ません」


――― 殺せと、できぬと、……ああ、この無為なやりとりは、いつか、どこかで。


「どう、して、殺して、くれないの?」
俺、お前が、そう、してくれると、思ったから。 オマエノ コト アイシタノニ。
「!」


――― その為に。貴方は僕を、僕だけを愛したと。
僕が、貴方に永遠の安らぎを齎す、死の遣い、だから?
……でも、それは。その、貴方の、僕への、想いは、本当に、愛、なのですか。


「俺を、殺して、ライドウ」
「い、やだ……っ」
「無理を言うものでは無いよ。カオル」


眼を閉じた彼を壊し続ける、その男が突然に口を開く。
……その声は、聞き覚えが、ある。

「……だから、言っただろう。“僕”は、君を殺してあげられないって」

今の僕は、君を穢して、傷つけて、苦しめる生しか、君にあげられないんだよ。ごめんね。






どこかで、聞いた声で囁いて、彼を揺らしながら、彼に口付けるその男の顔は、自分の。






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