救う、か。
……もう、一つだけしか、
その方法は、残されて、いないのだけれどね。
でも、今の君には、その方法は、けして、選べない。
だから、今の君に、彼を救うことなど、けして。
けして、できやしないのだよ。愚かな可愛い、幼い悪魔召喚師。
魔王の束縛から逃れた男は。
やめろ!と。格子に自由になった掌を叩きつける。
それ以上、彼を傷つけるな、と。
ダン、と鳴る音に気付いたのか、ゆっくりと、傷だらけの子供の顔がこちらを向く。
――― ああ、やはり。
幼くとも、分かる。……貴方だ。
「……ュラ!」
子供の瞳が、叫ぶ男の姿を捕らえて、かすかに、微笑んで、稚い唇が動く。
(……助けに来て、くれたの)、と。
「そうです!今、助けますから、待っててくだ」
(ありがと。……でも)
――― もう “手遅れ”だよ。ライドウ。
その瞳の色は、いつか、どこかで見た、絶望。
何も映さない、何の感情も見せないそれは、黒衣の男の全身を覚えの無い罪悪感で拘束する。
やがて、ゆっくりと、子供の瞼が閉じる。一筋の、涙を生んで。
それでも、唇は願いを囁き続ける。いつか、どこかで聞いた願いを。
(だから、俺を助けてくれると言うのなら、どうか)
「俺を、殺して」
お願い、死なせて。
「……っ、できません!」
「殺して、ライドウ」
俺を、解き放って。この、残酷なゲンザイから。
「でき、ません」
――― 殺せと、できぬと、……ああ、この無為なやりとりは、いつか、どこかで。
「どう、して、殺して、くれないの?」
俺、お前が、そう、してくれると、思ったから。 オマエノ コト アイシタノニ。
「!」
――― その為に。貴方は僕を、僕だけを愛したと。
僕が、貴方に永遠の安らぎを齎す、死の遣い、だから?
……でも、それは。その、貴方の、僕への、想いは、本当に、愛、なのですか。
「俺を、殺して、ライドウ」
「い、やだ……っ」
「無理を言うものでは無いよ。カオル」
眼を閉じた彼を壊し続ける、その男が突然に口を開く。
……その声は、聞き覚えが、ある。
「……だから、言っただろう。“僕”は、君を殺してあげられないって」
今の僕は、君を穢して、傷つけて、苦しめる生しか、君にあげられないんだよ。ごめんね。
どこかで、聞いた声で囁いて、彼を揺らしながら、彼に口付けるその男の顔は、自分の。