堕天 1




「キュ?」

ふと目を覚まし、大好きなシュラが居ないことに気づいた白い子狐はキョロキョロと辺りを見回した。
部屋のどこを探しても居ないことが分かると、クズノハと名付けられたその子狐は急いで、部屋を
跳びだした。が、その途端、廊下にいた何かにぶつかり、悲鳴をあげる。

「キュウ、キュキュウ!」
「おや、子狐くん。どうしたのかな」

鼻先をぶつけて痛がって泣いていると、子狐にとって、とても怖い人の声がして、慌てて逃げ出そうとするが、あっさりと捕まった。

「お待ち。シュラが居ないから、探しに行こうとしたのだろう?」
この人の声はとても優しいのに、いつもとても怖く感じるのは何故だろう、と子狐はふと考え、また我に帰るとその腕の中でもがいた。

「ついておいで。今から私もシュラの様子を見に行くところだから」
もがく子狐をあっさり床に降ろすと、その人はゆっくりと廊下を歩いていき、しばし考えた後にクズノハも ついていった。

――― シュラがルイと呼ぶ、怖い怖いきれいな人に。


ルイが入っていった部屋に続いてクズノハが入ると、入ってきた扉が勝手に閉まり、クズノハは
ビクリと毛を逆立てる。

「ああ、そんなに怯えないでおくれ」
くすくすと笑いながらルイが言うと、クズノハはおそるおそる、ルイの方に寄ってきた。

「キュ?」
「シュラがどこに居るかって?すぐに見れるよ。ほら」

そう言うルイの背中、部屋の奥には不思議な幕のようなものがあり、微かな赤い光がそこからチラチラと走っている。

「これは、君たちの言うテレビのようなものだよ。遠くの映像を映し出す。・・・ああ、君の時代には普及していなかったか」
クズノハのよく知らない言葉を使いながら、ルイは何かのスイッチを押した。



next→

魔界top