「・・・あ」
ついさっきまで枷のあった手首を舌でチロリとなぞられる。そのまま指先まで舐め上げた悪魔は、
震える天使の指を咥えて甘く噛み、ピチャリと音を立てて味わう。
その優しい愛撫を両手にほどこした後、力を失いカクリと崩れ落ちる天使を抱きとめた。
(・・・え?)
ふわりと抱き上げられた高さの感覚に少しの違和感を覚えたウリエルに
くすり。と、解答が提示される。
「相手に合わせて、身体のサイズぐらい変えれるよ」
普段の俺だと、その綺麗な羽根が床に擦れて汚れる、だろ?
性別すら変えられる主に、愚問であったかと思いつつ、おそらくは生まれてはじめての
横抱きに戸惑う天使を、悪魔は柔らかな寝台らしきものにそろりと下ろす。
うつ伏せに降ろされ、背中からふわりと抱きこまれた天使は、首筋に悪魔の甘い息を感じた。
チクリと感じた痛みにすら悦びを感じて震える肩は、何度もふわりふわりと唇で掠められる。
「ねえ、翼、って、感じるの?」
無邪気にそう尋ねながら、悪戯のように翼の付け根にキスを落とされ、舐め上げられて、
天使は耐え切れないように喘ぎ声を漏らす。
くす。
「感じるんだ」
・・・羽根全部舐めてやったら、楽しいかな。どこまで我慢できそう?
生殺し発言を楽しげに落とす主の下で、ピクリと恐ろしげに震える下僕を悪魔は微笑んで見やる。
ま、でも、時間少ないから、他のことして楽しもう、ね。大天使。
そう言って、そのままゆっくりとうなじを、肩を、背中を、腰を愛撫され、どこか、手加減をされて
いるような優しいそれに酔ったように、天使は目を瞑る。
やがて。
ずっと続いていればいいと願うほどの幸せな時間は、ピチャリという濡れた音で終わらされる。
「あ!・・・ああ、い、けません」
――― 怖い!
自らの後腔に主の舌を覚えた下僕は、その恐怖に目を開く。
・・・その視界に映るのは、目隠しの絶望の白。
「どうして」
そこを舐め上げながら、悪魔は天使の中心に手を伸ばす。
「・・・っ。あ、あぁ。あ」
――― ちが、う。怖いのは、自分が壊れること、ではなく。
「こんなに悦んでるくせに、何が、いけない、の?」
身体は正直、だね。大天使。
揶揄されるまでもなく。
張り詰めたそこが、最愛の主に触れられて歓喜に震えるのを自覚して、更に絶望する。
「あ、あ。だめ、です。貴方が、あな、たが」
――― 汚れる。
また、わたしの、せいで。
・・・わたしが、あなたを汚すこと・・・それが、こわい。こわくて、たまらない。
(そして、あなたに、うとまれ、みはなされ、すてられる、ことが、なによりも)
狂ったように首を振って拒む天使を見て、不満げに眉を寄せた悪魔はその残酷な手を止めた。
◇◆◇
サラ。
甘い責苦から解放され、倒れ付すようにその場に突っ伏し、荒い息を吐く天使の肌に。
不思議な感覚が落ちてくる。
何かが、触れている。しなやかで細い、何かの束のような、ものが、肌の大部分に。
――― まさか。
予想したソレのあまりの背徳感にウリエルの背筋が凍り、動かない身体を叱咤して起き上がろうとする。
「ウリエル」
――― っ。・・・ああ。
知らず、天使の身体が小刻みに震えだす。「その事実」の恐怖と歓びに。
・・・愛しい主が自分を呼ぶ声に、これほどまでに虞を覚えるときが来るなど。
「ね。ウリエル。お前が、『私』を汚すことをそれほど恐れるなら」
聞こえてきたのは、どこか、機嫌を損ねたような、柔らかいアルトソプラノの声。
「『私』は、それをお前に命じよう」
震える天使の頬に触れる悪魔の手は、先ほどよりも小さく、しなやかで。
「『私』を抱きなさい。ウリエル」
ふわりと己の胸にとびこんできた肢体は軽く、柔らかで。
くす。
――― それがお前への『罰』だよ。
我知らず強く抱きしめた自分の腕の中で、最愛の主が甘く呟くその断罪の言葉を聞きながら。
堕ちた天使は絶望と歓喜がない交ぜになった地獄へと更に突き落とされた。