視界は遮られていても、この方の容を私が分からぬはずもない。たとえ、その色を変えられても。
すべらかな頬を撫で、しなやかな髪の毛に指を絡め、額に、耳朶に触れるだけの口付けを落とし。
膝の上で抱きすくめた悪魔を、どこか怯えたふうに、そっと、慎重に天使は触れる。
自分が触ることで、この芸術品を壊すことを恐れるかのように。
「まだ、怖いの?」
唐突に、心を見透かしたような言葉が耳元で囁かれる。
その囁きひとつで、我が身がひくりと感じさせられていることを。ご存知なのか。
「・・・はい」
ええ、怖い。怖いの、です。でも、それ以上に。・・・欲しい。貴方が。
くすり。震えた声の故を知るのか、悪魔はあくまでも悪魔的に笑い、甘い声で追求を続ける。
「お前の綺麗な手は、私を汚したりしないと、思うけど?」
――― 本当は、何が、怖いの?
本当は?
貴方を汚すことが?
貴方に囚われることが?
自分の醜さを目の当たりにする、ことが。
「貴方に嫌われる、ことが」・・・そして。
くすくす。
「じゃあ、もう観念して、全部、見せてごらん。ウリエル」
綺麗なところは大体分かったから、お前の言う、汚いところも見せて。
じゃないと、嫌うこともできないけど、愛することもできない。
無邪気に真理を説く混沌の王に跪きたくなる。
そう。貴方は、そうして、闇も光も聖も魔も全てを捕らえて、取り込んで、虜にさせて。
その身の内で、身ごもり、育み、昇華させて、ここまで、強く、美しく、なられた。
おそらくは、想像を絶する、痛みと共に。
貴方にお分かりになるだろうか。
貴方を罠に嵌めようとした、あの戦いで。
舞い散る赤い羽根の中で凄絶に微笑まれる貴方を見つけたあのときの。
私のあのおぞましいほどの悦びが。
それほどに美しく、強くなられるために、どれだけ傷つかれたのかを分かっていながら。
私は歓喜した。その完成された凄まじい美に。だから。その貴方に会えたそれだけで。
もう、滅してもいいと。そう、思って。
あの光の前に飛び出したのだ。
寝台の端に主人を腰掛けさせた下僕は。
心と体が望むままに、床に跪き、その尊い足の元に額づく。
「・・・いいの?そんなことして」
それは、十字架にかけられたあの方へ捧げるべき、行為、だよ。
どこか、遠慮がちに呟く主。そう、貴方は「あちらの御方」についても造詣の深い方だった。
けれど。もう。
「はい。もう、貴方以外の誰にも」
私が、こうすることは、ありません。
そして、天使は悪魔の足首に手を添えて、そっ、と、その唇を尊い足先へと寄せた。