誓(ゲッシュ)01





リン

はい

頼みが、あるんだ

はい

俺が、居ない、ときは、護ってやって、くれ

・・・はい。・・・その、必要が、あれば




◇◆◇






「大体、お前みたいな素性も知れない悪魔がこんなところに居るのがおかしいんだよ!」
「そうだそうだ!」
「そういうの、何て言うか知ってるか?」
「身の程知らずって言うんだよ!!」

「・・・」

会議に参加している貴族悪魔の眷属、なのだろうか。

ケテル城の庭を歩いていたクズノハは、いきなり見知らぬ悪魔――― 見た目では分かり にくいが、放つ"気"から、そのレベルと精神年齢が幼いのが、分かる――― 複数、に囲まれる。

またか、と。
心中で溜息を付きながら、クズノハは黙して彼らを見る。

突然に迷い込んできた己が、"そこ"に居ることに、不快感を持つモノは多い、と。
気をつけるのよ、相手をしない方がいいわと、ピクシーが、そっと耳打ちをしてきたのは、少し前。
既に、これまでも何度か、くだらない罵りを受けた。

だが、その反感も、当然のことか、と。
どこか誇らしく、どこか悩ましく、周りの"敵"の数と能力をアナライズしながら、幼い狐は思う。

シュラ様は、魔界で絶大なる人気を誇る。
「元人間如きが」と見下していたであろう魔界の石頭の重鎮共も、あの戦う姿を一目、見れば。

溢れる闘気、無駄を排したそれでいて美しい動き、一瞬で屠られていく敵だった、もの。
まるで微笑んででもいるようにその唇は微かに口角を上げ、その目は残酷なほどに優しげで。
その赤く輝く瞳の奥だけに、とても、哀しい色を、湛えて。

誰かが言ったものだ、殺される敵が羨ましい、と。
あの目に見つめられて、あの魔力に触れられて、痛みも感じぬほど瞬時にとどめを刺されて。
その死はどれほどに安らかなものだろうか、と。


(我らは、とてもあのような優しい殺され方はしてもらえぬだろうからな)
(ふ。天界の弱い鳩どもは、残酷であるからの)
(何十回と刺されて戦場に放置されて、数日後にやっと衰弱死、が関の山だねぇ)
(おお怖い。ああやって、あの方に優しく殺されるなら、いっそ天界に寝返りたいほどだ)

(・・・あの方に殺されるためにかの?)
(おおよ!)
(その場合、無抵抗なのかねぇ?)
(反撃したりはせぬのか?)
(・・・できるはずないって、分かってて聞いているだろう?お前ら!)

そう、笑いながら、恐ろしいことを話す魔将軍達の瞳の色は、きっと。
あの方のことを思いながら、浮かべる自分のその色と、きっと、同じだった。
手に入れられぬ至高の花を、願ってやまない切望の、色。


「聞いているのか!この狐!!」
「・・・聞いております」

これだけの多勢で取り囲んでも、脅えるでもなく怖じるでもない美しい獣にイラついたのか。
投げられた、苛立たしげな声に返るのは、涼やかな声。

え・・・、と。
周囲の輩が驚くのが分かる。
「お、お前、話せるのか」

確か、この狐は産まれて間もない、はず。
妖狐の子、とはいえ、尾も"まだ二本"だし、こんな流暢な言葉が話せるはずも。


(・・・話せない相手と思って罵倒しに来たのか)
余りの敵の情けなさに、溜息が出そうになる。本当にこれは八つ当たりでしか無いのだ。
あの、美しくて優しくて、それでいて。
いや、それだからこそ、誰よりも残酷なあの方への、届かぬ想いの。

(八つ当たりしたいのは、むしろ己の方なのに)
こんなに近くに居ても、あの方の内には、入れない、のだ。僕も、お前たちも・・・誰も。
あの、ライドウ、という忌み名を持つ、その人間、以外は。


――― ありがとう。シュラ。
君のお陰で、「天の南(ウリエル)」も堕ちた。

ふふ。"神"が堕ちるのも近いことだろう。君のその、原初の混沌が持つ、偉大なる力の、前にね。
そういえば、"真の悪魔"と君を評していたけれど、・・・"あの世界"での私が。
でも、本当にそうだね。
"本当の悪魔"、とは、君のことを言うのだろう、と。

あの方の髪を撫でながら、誇らしげに、呟いていたのは、あの恐ろしいルイとおっしゃる方。
同感だ。あの方以上に、悪魔な方は居ない。存在するだけで、残酷で・・・


「こ、言葉が分かるなら、ちょうど、いい!」
「・・・何か。僕に御用でも」

開き直ったような悪魔の声に返る子狐の声は、先程よりも、硬い。

「お前、シュラ様のお傍から離れろ!」
「・・・」

「そうだ、この身の程知らず!」
「あの方はなぁ、お前みたいな力も無い、素性も知れない狐が傍に居ていい方じゃないんだぞ!」

罵倒する悪魔たちは、その狐の気がゆっくりと黒く変質していくことに、気付かない。

「だ、大体、お前、ヒトの血が混じってるだろう!」
「本当だ・・・結構、匂いがきついな」
「・・・これだけ濃いってことは」
「へえ。お前の前世が人間だったか、お前の親のどっちかが人間だったんだろうな」

続く罵声を予想した子狐の目が光り、"敵"の死角で、ず、と、その影が動く。
"2本"しか無いはずの、その尾の影は5本。
その内の4本の影は地中に潜り、4体の"敵"の背後へとゆっくりと伸びていく。

「ヒトの血が混じったような穢れた生き物が、ケテル城に居るなんて」
信じられないよな、と、続ける悪魔たちの背後から、急所を刺し貫こうとした4本の尾の影は。


(やめなさい、クズノハ!)

突然に己の前に、現れた白い甲冑の悪魔の念話に、寸でのところで、止まる。

「「「「・・・リ、リン様」」」」
「・・・その名を、貴方がたに呼ぶのを許した覚えはありません」

それより、一体これは、何の騒ぎなのですか、と訊ねる彼の瞳は。
絶対零度の冷ややかさを持っていた。




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後書き反転

某作品で楽しいミッションがあったので、一人クー祭り開催中w。

続きますが、某作品ネタバレはあんまり無いのでご安心を。

既にミッションされた方は、にやり、とされるかもですね。
これからされる方は、ミッションされたときに、にやり、としてください。

ウリエルは四大天使の中で、南、を象徴します。四聖獣ならスザクが南。
四大鬼神なら・・・ああ、それで魔神転生はウリエルと南さんなのかという話。