Metamorphose 18



「桔梗!」
愛しい声に偽りの名で呼ばれて、トクリと胸を打つのは少しの罪悪感と、それ以上の喜び。

ずっと、心配していた愛しい主の駆け寄ってくる姿を見て、思わずとクズノハの瞳が潤み。
お邪魔虫は不要ね、と悟ったジルがそっとその場を去る。

「シュラ様。…ご無事で、」
良かった、と言いかける暇もなく。

「え」
間近で瞳を合わせられて。そっと、優しく髪をかきあげられて。
確かめるように、遠慮深げに頬に触れる指先の優しさに、ドキリとする。

「良かった。さすがにウリエルの癒しの術。ヒトツも傷跡、残ってないね。……でも」
ごめん。酷い目に遭わせたね、とすまなそうに頭を下げるシュラの姿に、クズノハは焦る。

「いい、え。いいえ、ボ…いえ、私のほうこそ力足らずで」
何も、できなくて。他の方みたいに、お役に立てなくて。

「そんなこと、無いよ」
俺、途中からキレちゃってよく覚えてないけど。

「すっごく、かっこよかった!」
(お前、すっごくかっこよかった!)
「!」

それは。
いつか、どこかで、同じ声で、同じ笑顔で、聞いた、賞賛。
ずっと前に。ずっとずっと前に。ココじゃないどこかで。
――― どこで?

知らぬ記憶に子狐が、戸惑う隙にいきなりと。
「また、会えるかな」
主から問われたソレに、嘘で返せるほどに子狐はまだ“化かす”ことに慣れておらず。

どう答えていいか分からずに、視線を揺らして、うつむいてしまった様子を見て。
シュラは思わずと苦笑する。

(本当に、この子は。魔族とも、思えないほどに…)

「可愛いね」
「え?……ぁ」

小さな小さな、優しい囁きに、思わず上げたクズノハの白い額。
その中心に、シュラの唇がほんの少し、触れる。
それは、故意のような偶然のような、淡い、接触。

それだけで、ぽう、と赤くなってしまった桔梗に。
「続きは、会えたときに、ね」と、混沌の悪魔は困ったように優しく、笑い。

“続き”、の意味も分からぬままに、幼いクズノハはこくりと素直に肯いた。




でも、きっと

もう二度と、会えないんだろう、な

そんな気がするよ

不思議な、綺麗な可愛い、狐さん




Ende

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後書き反転

※続き、かぁ。続き…なぁ。(ちょっと遠い目w)