キツネ 01





「では、我等が(おさ)に名乗りをあげよ。幼き白狐」

「クズノハ、と申します」

((((!!!))))

ざわ、とその場に響く動揺の波は。

「どなたにその名をもらった」

「ルイ様、とお聞きしております」

その恐ろしい回答を得て、深い沈黙の海に落ちた。




◇◆◇




広い。広すぎるほどの板の間。
武道場と称すのが適切であろう広間の四方をぐるりと囲むのは、狐一族の主だった者達。

その中央でちょこんと、物怖じもせず狐一族の長老に対面する“三本”の尾を持つ子狐は、
周囲のあからさまな検分の視線に動揺すらしない。

(クズノハ、とは。アレか。東国の葛葉姫由来の)
(なるほど。蛇姫の裏切りを看破せしめたほどの狐にふさわしい強き名。)
(いやいや看破というよりは、嫉妬に駆られた蛇姫が自滅したというほうが正しかろう)

知らぬは主ばかりなり。七獣族筆頭の蛇一族が突然の凋落。その原因は蛇姫の失態。
となれば、その元となった謎の美女の正体を皆がこぞって調べ上げるのは当然で。

(しかし、名に力があっても、アレがそのような“美女”に化けるとはとても思えぬが)
(ジル様が年齢を上げる薬を処方したとか…いや、でも、それだけでは)
(尾もまだ三本であるし……いや、信じられん)

件のアスモダイの忠告を違う意味に取ったシュラが、クズノハの立場をより強固で確実なものとするべく、 ジルの祖父である狐一族の長にその旨を伝え。そして。現在に至るのだが。

ざわざわと騒ぐ周囲を知らぬげに、狐の長はふむ、と目を細めてクズノハを見やる。

「クズノハ、か。なるほどのう」
力のある名をもらったものじゃ。しかも。おぬしの相に合うておる。

「相?」
「“そう”じゃ。……いやいや洒落ではないぞ。洒落では」

がははは、と笑い出す長老の横で、お爺さま、また脱線して!と小声で注意を入れるのはジル狐である。周囲が何の反応も示さないのを見ると、これはいつものノリらしい。

「コホン。それはともかく、じゃ。おぬし、何故に尻尾を隠しておる?」
「……何のことか、分かりかね」
「しらばっくれずとも良い。この場はシュラ様の命を受けて、ワシが選りすぐったモノしか居らぬ」

真実の力を見せておかぬと、侮る輩も居ぬとは限らぬぞ、と言われて。
暫し躊躇した後に、クズノハはこくり、と、ひとつ肯き。
瞬時に、その幼い見た目にはとても似合わぬ6本の尻尾を、ふわりと揺らせてみせた。




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実はものすごく成長速過ぎるんですけどね。早く追いつかないといけない都合がねw