青翼 1







おいで。俺の青い鳥。







「"Frau Holle schüttelt ihre Betten aus".」

まるで、雪のようだね、と。
寝台の上にふわりと落ちかける白い羽毛を一つ、そっと指先で捕まえて、シュラは笑う。
フラウ ホレの羽根布団が作れそうだと、

「フラウ ホレ。ドイツの伝承に出てくる魔女ですか」
彼女が異世界で布団を叩くと、詰められた羽根の白い羽毛が散る。それが人界で、雪となる。
そう返すと満足そうにうなずいて、たくさん積もったね“雪”とまた、主は笑う。優しく。

その、自分が降らせた“白い雪”が積もったその上で。
籠だ、とウリエルは思う。この方の声は強くしなやかな籠。
一度そこに囚われてしまったら、どれだけあがこうと、どれだけ羽根を撒き散らそうと
二度とは出られぬ悪魔の鳥籠。

(あの時、貴方を捕らえるために成した、光の檻。私の羽で今の貴方を捕らえられるものなら)
――― 全ての羽を毟り取られても、構わない、のに。

そんな祈りに気付いているのか居ないのか。
鳥の飼い主はゆるりと笑む。笑んで誘う。もっと雪を降らそうか、と。恐ろしい言葉で。

「おいで、ウリエル」

その声で、名を呼ばれて。
その腕の中にふわりと羽ごと抱きしめられて。
気が遠くなるような幸福にこれ以上堕ちないために、ウリエルは思考を羽ばたかせる。

(この方の傍で、夜を共にするようになってから、何日経ったのだろう)

白の力を欲しがる主。
黒の力に苦しむ下僕。
互いが互いの利害の一致を認め、肉体の一致による力の授受を効率的に為すと合意した。

だから、これは、ただの。

(そう。ただの接触活動。きっとこの方にとっては)

……けれど、私にとっては。

「ウリエル?」

は、と顔を上げると。
どうした。やっぱりツライか、と心配そうな声。少しせばめられた、瞳。

その響きに、少なくとも慰撫活動ではあるのかと闇に堕ちていく心の速度を緩めて。
悪魔の鳥籠の中の天使は、いいえと嘘の混じる答弁を返した。



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